「……また潜り込んでる」
項あたりから聞こえるもう一人の寝息、腹に回る腕。
デジャヴっていうかこいつほんと学習しないな。
「もういっそ同じ布団で寝た方が手っ取り早い気がする」
回った手を叩きながら起こして、またいつものような朝を迎えた。
それから、蒼志は時々我が家を訪ねるようになった。
時には傷をこさえて、血を流したり、紫の痣を作ったまま。
緒方曰わくちょっとは大人しくなっているらしいが、怪我はしないようにしてほしい。
うちの心優しき天使、つまり桜が毎回泣くんだよなぁ。
自分まで痛そうな顔して、俺が蒼志の手当てをしているのを眺める姿は、結構ずきずきくる。
とにかく、家に来た日は夕飯食べて勉強教えて貰って、泊まった日には布団の攻防を繰り返し、気付いたらテスト開始前日になっていた。
「あのさ、蒼志」
今夜、蒼志は泊まっていくらしい。
というかテスト期間中はフルで毎日お泊まり会状態だ。
理由は朝起こして貰えるからだとか。
俺は母親か。
「蒼志くんや」
「なあ、ここって自発だよな」
「え、どこ?」
「ここ」
「そう、合ってる、…じゃなくてですね、蒼志くん」
「何だよ」
「お願いがあるんですが」
「はぁ?」
そんな訝しげな目で見るなよ…。
「今週の土曜か日曜、暇だったりしない?」
「特に予定は入れてねぇけど」
「ピクニック行こう、ピクニック」
「………桜か」
「あっちゃんにお花の冠作るんだって、マジ天使」
何であの子あんなに可愛いの。ほんと兄に生まれて良かった。
「わかった、あけとく」
「あ、あとさ」
「まだあんのかよ」
「今回のテスト、前回より順位が上がったら、」
……あ、待った、これ男子高校生が言っていい言葉か?対同級生に言っていい言葉?
でも他に言い様が、…お願いじゃなくて、実行して欲しいことだし。
えーい腹を括れ俺!
「ご、ご褒美が、欲しいデス」
「……はぁ?」
わかるけど!そんな目で見るのはわかるけど!
こっちだって思ったより恥ずかしいんだからその目はやめろ…!
「や、別に金目のもの要求してるとかじゃなくて」
「わかってるけどよ」
「……あのさ、あんたよく怪我するじゃん」
「………ああ、まあな」
「喧嘩するなとは言わないけど、怪我、なるべくしないように、してくれないかな」
「は?」
「痛いのは、嫌いなんだ」
俺自身が怪我したわけじゃない。
でも、強がっても目の前の不良は絶対痛いし、桜だって辛そうだから。
「頑張るから、ご褒美頂戴」
「……恥ずかしい奴」
知ってるわ、そんくらい!
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