……………よし。よし。
大丈夫だ、怖くない。平気だ。頑張れ俺。
屋上扉の前、佇む事5分。
昼休みでも今日は弁当を持ってきてないから手ぶらである。
小刻み揺れる指先をドアノブに伸ばす。
男は度胸!
桜のために!
がちゃん、と思いの外大きな音がして、視界一杯にいる不良さん方と目が合う。
怖ぇええ…!
だがそれが問題じゃない。
用があるのは、あの目をかっ開いてる赤髪。
「あっちゃん!!」
「……はァ!?」
「お友達になりませんか!」
「ッ何言ってんだお前!」
「桜が、会いたいって、」
「……」
「…あー、違う、これは、後付け」
「……」
「もしさ、あんたが自分の立場だとかそういうの気にして、俺達を避けてるならさ」
「……」
「友達とか、そういうのがあれば、別に関係なくなると思うんだ」
「……」
「そりゃ不良は怖いよ」
「……」
「俺だって、ちょっと避けてたからあんたに強くは言えないけど」
「……」
「友達が友達の家に遊びに来るって、普通じゃん」
「……」
「だから、友達になりませんか」
静まる、空気。
………や、おい、俺これめっちゃ恥ずかしいんだけど。
屋上で青春とか、ほんと、火が出るくらい恥ずかしいんだけど。
「…顔真っ赤だぞ、お前」
「うっせ」
「大体、恥ずかしいんだよ」
「俺だって恥ずかしいわ」
「折角離れてやったのに」
「それは失礼しました」
「あと、あっちゃんて言うのやめろ」
「だって、」
だって、さ。
「俺、あんたの名前、聞いてない」
知ってた?
この数日、色々考えてみて一番びっくりしたよ、俺。
うちの人間は皆このひとをあっちゃんて言うし、緒方もあっくんだし、他に至っては銀狼しか言わないし、名前に『あ』が付く以外の情報が一切なかった。
だったら、あっちゃんて呼びかけるしかないだろ。
「……蒼志」
「ああ、だからあっちゃん」
「ほんと今更だな、お前」
「だって俺達、ろくに自己紹介してないじゃん」
「それもそうか」
「あ、司です」
「知ってる」
「はは、」
「司」
「何?」
「よろしく」
数日前に見た笑顔を見て、俺も急に安心して、どうにも笑ってしまった。
「青春だねぇ、あっくん、司ちゃん?」
「「あ」」
緒方がいやーな笑みを浮かべて俺達の間に立った。
他の不良の面々がにやにやしてるのが目に入って、…ああもう、俺、完全にしくったわ。
03.聞いてません
(泣きたい)
(お前だけだと思うなよ)
(ごめん、あっちゃん)
(やめろ、つーちゃん)
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