side 蒼志
司が出て行ってから、陸が難しい顔をして煙草を取り出した。
周りの奴らも、怪訝そうだ。
「あっくんさ、どういうつもり?」
「…別に、関係ねぇだろ」
「司ちゃん、ほんとふっつーの、喧嘩とかそれこそ無関係のタイプじゃん」
知ってる。
ただ何となく、あれは大丈夫だと思った。
最初はあいつの妹に捕まって、父親に捕まって、それから司と話していくうちに、単純に話すことが楽だと気付いた。
屋上に集まっているような不良といる時とは違って、居心地の悪い、それなのに気分が悪くならない空気感。
「俺たちはいいけどさ、」
「……わかってる」
「頼むよ、リーダー」
いつから喧嘩を始めたのか、忘れた。
いつから組まれた集団のトップに立たされたのか、忘れた。
気付いたら銀狼とか言う馬鹿みたいな名前をつけられて、似たような仲間が増えていった。
避けれる手足に当たって、空振る刃物に掠めて、これが現実だと常に思い込んでいた。
別に、平和を望んでいる訳じゃない。
それでも、違う何かを望んでいたのかもしれない。出しすぎた血と幾らか痛む打撲痕に、構わず倒れた見知らぬ家。
開いてみたら、能天気な子供と大人が、そこを占領して、それに俺を埋め込んだ。
「その包帯、司ちゃんでしょ」
「まあな」
「失くさないようにね」
それは、暗にもう近付くな、ということなんだろう。
あれを守るには、それが確かに一番だ。
「お前ら、あれに手出すなよ」
下らない集団が頷いたのを目に、結局俺は何も出来ずにいた。
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