さて、と。
そろそろ昼休みも終わるし、教室戻るか。
「司」
「ん?」
「また行く」
「ん」
空になった弁当二つを鞄にしまって立ち上がると、赤い髪のイケメンが笑っていた。
嫌味を思わせないのが嫌味な気がしてくる。
「司ちゃん、教室まで送ろっか?」
「大丈夫」
「じゃあ屋上出るまで一応」
ちら、と周りを一瞥した金の髪のイケメンに、やっぱり屋上ってそんな危険な場所なのかと知った。怖い。
「司ちゃん」
「何?」
「あっくんのこと、知らないでしょ?」
「へ?」
締められた屋上の扉、普通の廊下へと続く薄暗い階段は、誰も居やしない。
金の――緒方陸は、目を細めて言った。
知らない?
…それは、どう言う、意味。
「本当はさ、」
「……」
「このままずっと、仲良くしてくれたらって、思うんだけど」
首を傾げる動作に、緒方のさらりとした髪は流れて、顔に影を作る。
さっきまでとは、別の、人間みたいだ。
「離れた方が、いいよ」
こっちも、君に近付けないようにするから。
とん、と軽く肩を押されて、それでもその力は階段を落ちる程ではなくて。
漸く聞こえる声で呟いた緒方は、扉の向こう側に呆気なく戻っていった。
今のは、つまり。
「拒否されたのか、守られたのか」
きっと、後者な気がする。
不良に関わるとろくなことが無いって、忠告なんだろう。
それは、素直に、従った方が、きっと。
俺は普通の人間で、誰かを守れる力も無い。
だから、俺だけじゃなくて桜にも被害が及ぶかもしれないと思うと、どうしったって、俺は。
「て言うか、俺、あいつのことほんと知らないわ」
…桜なら、何て言うんだろうなぁ。
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