俺が抵抗するだろう、ってことがわかってたのか、俺の両手首は蒼志の両手でがっちり掴まれてる。
その上壁際に追われてるから逃げることも出来ず、そうなったらもう、蒼志の独壇場だ。
「んッ」
反射的に目を瞑る。
唇が重なると、途端にどうしたらいいかわからなくなった。
呼吸の仕方も、瞬きの仕方も、立っていることさえ、それが正しいことなのかわからなくなる。
「っん、ん……!」
多分、舌、で唇を舐められて。
何でか、自分でも知らないけれど、勝手に口を開けてて。
そうしたら急に蒼志の舌が口の中に入ってきて。
舌と舌が擦れる感覚。
熱いような、痺れるような、どう形容したらいいんだろう、不思議な感覚。
気持ち悪い、って思わないあたりが、何か、ね。恥ずかしくなる。
「……つかさ」
「ッや、ぅ……っ」
名前を呼ばれる瞬間だけ息継ぎが許されて、でもそれはほんと少しだけ、後はまたぐちゃぐちゃと、咥内を貪られる。
「いッ、ぁ、……っん!」
宇月に殴られたところに蒼志の舌先が触れると痛いのに、俺の肩だって勝手に跳ねるから蒼志だってわかってるはずなのに、わざとかってくらいそこを舐められたりつつかれたりもした。
「ゃ、あお、し……、ッ!」
ストップをかけたって無駄だった。
両手はとっくに離されていて、だけど身体がぴったり重なるくらいに抱きしめられてて、背中に腕を回して引っ張ってみても、力が入らなくて意味がなかった。
ぞくぞくして、ぞわぞわして、酸欠で頭がふわふわして、足元もふらふらして。
「……っ」
死ぬ、って思った。
そのタイミングで、蒼志はやっと俺を解放した。
……って言っても、俺が上手く立ってられないから、抱きかかえられたままではあるんだけどさ。
俺が荒く息を吐く間、蒼志は普段と寸分変わらぬ、……と言うより、どこかすっきりした顔で俺をじっと見ていて、責める気も失せてしまった。
どうしてこんなことをしたのか未だにわからないものの、多分思うことがあったんだろう。
「……まんぞく、した?」
「した」
じゃあもう何も聞くまい。
ああそういえば、宇月にもさっきキスされたんだっけ。
一応それの上書きにもなったから、俺にとっても悪いことじゃあなかった、かな。
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