殴られたとか、キスされたとか、そんなのどうだっていい話だ。
宇月は許せない、桜泣かせたから許さない、結論はそれだ。
「て訳で、もうそいつは好きにしていいから、さっさと帰ろう、蒼志」
話し合いをしていた扉を勢いよく開けて俺がそう言い放つと、途端にシンとした空気が流れた。
蒼志も緒方も目がギラギラおっそろしいものだったけど、思いの外殴り合いとかにはなってなかったことは幸いだ。
「……司」
「桜が、蒼志も一緒が良いって言ってる」
「司」
「あのさ、蒼志。俺、自分にもむかついてるけど、お前にも緒方にも腹立ってるから」
「……あ?」
「へ?」
ここに来る前に約束したはずだ。
絶対危ない目に合わせない、と。
確かに直接危害を加えられるようなことではないし、桜が勝手に動いて宇月と鉢合わせただけだけど、泣いたことには違いはない。
「宇月のことはもうどうでもいい。もう桜に近付かないってことも決めた。これ以上話合いは必要ないだろ」
「……」
「他に何か話合うことでもあんの?」
本当はいくらでもあるんだろう。
スバルさんと宇月が起こした今回のことは、俺と蒼志、それからアンズさんだけで話が終わるはずのことじゃない。
この話し合いには参加してないけど、今日この店の中に居るうちのほとんどは何かしら関わってるんだろうし。
それでも、俺は引くつもりはなくて。
「……陸、後は任せた」
「……うっそぉ」
それを勿論蒼志は気付いたらしく、溜息をついて俺の方に向かってきた。
緒方は頬をひきつかせ、でも俺たちがどうせ言うことを聞かないのも分かったようで、頭をがしがしと掻いた。
そして、成り行きをぽかんと、だけどどこか楽しそうに聞いていた宇月に蹴りを入れていた。緒方、多分それ、八つ当たりってやつだ。
「陸」
「……なぁに、あっくん」
「俺はこっちを取るって、前に言っただろ」
「……うん、知ってた」
さて、それは何の話だろう。
きっと俺が聞いたところではぐらかされるのは目に見えているので、何にも聞かないでやることにした。
……ま、何となく。予想は、つくけど。
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