桜を抱えて扉を出ると、さっきよりも余計にバツの悪そう……というか、若干泣きそうな顔をしている後輩くん達が立っていた。
「すいませんっした!」
三人が同時に頭を下げる。
周りの人たちも桜の動向にはらはらしていたようで、泣いている桜を気にしているみたいだった。
何ていうか、ここの人たちも大概お節介というか、決して『良い人達』ではないんだろうけど、懐に入れた人には甘いんだと思う。
「や、こっちこそごめん。何か理由あったんだろうし」
「その、……トイレは流石についていけなくて」
「一応他の奴に頼んだんすけど、やっぱり桜ちゃん、司さんが気になったみたいで」
そりゃそうだよなぁ。男子高校生がいくら幼稚園児とはいえ、女の子連れてトイレ行くわけにもいかないし。
他の女の人に連れて行って貰っても、世話に慣れてないといつの間にか手元を離れて予想外の行動取るし。
「桜」
「あう……」
「俺の心配してくれてありがとう」
「ううう……」
桜だって、悪戯してやるだとか、そんな悪いことをしようなんて気持ち一切なかったはずだ。
ただ俺を心配してくれて、あと心細くて、あの場所に来ただけなんだから。
連れてきた俺が悪い。
あの男と会わせた、俺たちが悪い。
「今日はもう帰ろうね」
「……あっちゃん、は……?」
「……桜は、蒼志と帰りたい?」
腕の中の子供が、迷わずこくんと首を縦に振った。
「うん、わかった。……じゃあ、一緒に帰るために、ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、またみんなと一緒に待っててくれる?」
今度は少し迷って、それでも、桜はまた小さく頷いてくれる。
「ごめん、五分だけ桜お願いしてもいい?」
後輩くん達は一瞬ぽかんとしたけど、すぐに「はい」と言ってくれた。
桜を地面に立たせて、俺もしゃがみ込んでぎゅっと彼女の身体を抱きしめて。
「みんなで帰ろうね」
「……うん!」
漸く涙を引っ込めた桜に、何かもう、色々と吹っ切れた気がした。
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