そりゃあ、ね。心配してくれるのもね、嬉しいし。昨日俺だって助けてもらったし。桜のことも受け入れてくれてるのはありがたいんだけど。
でもさ?
「う、うぇ、つーちゃ……」
今までこんなに大勢の大人に囲まれたことのない桜は、ぐず、と俺の首に強く抱き着きながら鼻を鳴らした。
つまり、泣きそうな訳である。
色んな方向から腕伸びてきて俺とか桜の頭撫でてこようとしてくるのを蒼志や緒方、あと後輩君たちも止めてようとしてくれているものの、確かに俺でも怖い。
「……あの」
何かそれで、ちょっとぷっつりきちゃって。
自分でも思ったより低い声出てびっくりした。
緒方と後輩はびっくり目を見開いて、蒼志はさっと目を逸らした。
でもこいつらには構ってられない。
今は桜を守るのが第一だ。
「爪の長い人指輪つけてる人とにかく腕回り装飾品つけてる人あと煙草吸った後手洗ってない人は絶対桜に触らないでください」
一気に言葉を続ける。
ぴしり、と空気が止まった気がしたけど、知ったこっちゃない。
「長い爪で、指輪で、ごちゃごちゃした飾りで桜の肌傷付いたらどうするんですか。髪の毛に絡まって桜が痛い思いしたらどうするんですか。あと煙草吸うのは構いませんけど、わざと桜の前で吸ったりとか、吸ってすぐに桜に触ったりしないでください、桜によくないので。何より、桜が嫌がることは、絶対にしないでください」
「……」
「いいですか、約束ですよ」
「……」
「返事」
はい、とか、うなずく姿を見てほっと一安心だ。
自分だけだったら割とどうでもいいし、例え言いたいことがあってもこんなこと怖くて言えないし、脚がっくがくに震えるんだろうけど、桜のことになれば別だ。
お兄ちゃん桜のためなら何だって頑張れるよ……!
ふう、と息を吐くと、桜がきょとんとした顔で俺の顔を見ていた。
多分俺の言ってることはあんまり理解出来ていないと思う。結構早口だったし。
「蒼志も、桜守るって約束したんだから、約束破ったら怒るよ」
「……わかってる」
わかってくれてるならいいですよ、うん。
近くで「司ちゃんこわい」なんて聞こえたので、緒方の足の甲はこっそり踏んでおいた。
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