一応桜ちゃんのこと言ったんだけど、言ったから逆にさ、ええと、みんな興味持っちゃって。すっごい騒がしくなっちゃった。
あと昨日の今日だし、司ちゃんが大丈夫かどうかも心配してて、うん、ちょっと凄いことになると思うから。
「あっくん、頑張って」
「……」
店の奥、狭い階段。
俺の前にいる緒方は、俺の後ろにいる蒼志に振り返って上記のようなことを言い、苦笑を浮かべていた。
桜をだっこしたままだと中々上りにくい。が、目の前の男はさっさか先に行かず俺のペースに合わせて、ゆっくり上っている。後ろの男は言わずもがな。
万が一俺が足を踏み外しても、前と後ろの男がきっちりかっちりかっこよく、俺と桜をカバーしてくれるんだろう。
イケメンはらたつ。ありがたいけど。
一段、二段、三段。
階段を上りきると。まあ案の定、沢山の目がこちらに向けられる訳で。
今まで騒がしかっただろうに、ぴたっとみんな一斉に口を閉じ、オシャレな音楽だけが部屋に響いていた。
「あ、う……」
流石の桜もびくっと肩を震わせ、居心地悪そうに俺の首に抱き着いて顔を反らしてしまった。いや、うん、俺としては全然嬉しいんだけどね!!桜からぎゅってされるの幸せだしね!!
ただ、桜が怖がってると言うのはいただけない。
緒方と蒼志にどうにかしてくれないか、と言おうと口を開こうとした途端だった。
「やだぁ!めっちゃかわいー!!」
「あーあー、男前な顔になったなぁ」
「ねぇねぇ、桜ちゃんって言うんだっけ?頭撫でていい?」
「ちゃんと冷やせよ、つーか学校大丈夫なのか?」
「あ、せんぱーい!怪我平気っすか?」
「これが噂の天使桜ちゃんっすね!」
「写真通り可愛いですね!」
わーっと室内にいた人たちが俺たちの周りに集まってきて、女の人は大体桜に関して、男の人は俺の怪我に関して、色々と言い始めて。後輩くん達の声も聞こえたような気がする。
「おい、お前ら……!」
「ちょっと、ほら、約束と違うじゃないっすか!」
蒼志も必死に止めようとしてくれてるし、緒方も俺らが来る前に静かにしてるようにとか、何かしら約束取り付けてくれてたんだろう。
だけど、だ。
そんなので収まる感じじゃない。お酒も入ってるし、蒼志が来たし、昨日あんなことがあった俺と、それから幼い女の子が来て、テンションががんがんに上がっている。
蒼志が一発でも怒鳴れば大人しくなりそうなもんだけど、桜が居るから我慢してくれてるみたいだった。
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