不良とシスコン、時々天使 | ナノ


店の前にはいくつかバイクが留めてあって、店内には結構な人数が集まっているんだろう。そのバイクの中には多分緒方のものもあった。

「先に着いてんなら説明してんだろ」
「蒼志、交代」
「ん」

桜のことについて、緒方がちゃんと言っておいてくれるといいんだけどな。
何かあった時に蒼志に対処して貰おうと、代わりに桜を受け取って、よいしょ、と抱え直す。

ゆらゆら、目の前でツインテールが……。

「いてっ」
「あ!」

揺れていた髪の束が俺の顔にばしん、と当たった。普段こんなところに連れてきたこともないから珍しくて、きょろきょろしていたからだ。
反射的に痛いって言ったけど、まあ桜の髪の毛なら目に入れても実際幸せな痛みと思えるくらいなので、とりあえず大人しくしてようね、と彼女に伝えるだけで、怒ることは勿論しなかった。

「何やってんだ」

呆れる蒼志の声。
何でもないよ、ねー?と桜の頬と自分の頬を擦り合わせてきゃーきゃー遊んでいた。


ら。

「もー、早く入ってってば!」

と、緒方が、店の内側から扉を開けて、早く入るように催促してきた。
ちょっと機嫌悪そうだし、髪の毛もさっき会った時に比べてぼさぼさで、疲れてる感じだ。何かあったのかな。

「ずっと扉の傍で待ってて声聞こえるのにずっと入んないし!」
「あーはいはい、悪かったよ」
「あっくん今すっごい適当に言ってるでしょ!?」
「ごめんって緒方」
「あっくんマイペースなんだから、司ちゃんがちゃんと手綱握ってあげてよ、もー!!」

訳わかんないけど、八つ当たりした気分なのかもしれない。
はいはい、と適当に流しつつ店に入る直前、緒方のすぐ傍を通った時。
俺の腕に抱かれていた桜が、ぽんぽん、と緒方の頭を撫でてやっていて。

「おこっちゃめーよ」
「う……」
「りっくんはにこーってしてたほうが、すてきなのよ!」
「うううう桜ちゃあああん!」

と、緒方が桜に抱き着いてこようとしたので。
咄嗟に身を引けば。

「いったい!!」
「さっさと行くぞ、陸」
「あっくんひどぉい!!!」

何故か、むすっとした蒼志が緒方の頭を殴っていた。
まあ抱き着かれなかったから良いけど、ね。

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「見えない臓器の名前は」
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