「あのさ、提案なんだけど」
緒方は小首を傾げ。
「桜ちゃん、連れてったら?」
と、へらりと笑いながら、そう言った。
「はあああ!?」
「いや、ほら、桜ちゃんは司ちゃんとあっくんと離れたくないわけでしょ?でも少なくともあっくんは来てもらわないとダメだし。だったら、桜ちゃんも一緒に行ったらさ、司ちゃんも来れるし、ね?」
「ね?じゃない!!」
普段ならまだしも、俺どころか桜に危害を加えた原因になった奴が居るところだ。
そんな危ないところに桜を連れて行けるわけがない。
「司ちゃんも知ってる後輩もいるしさ、あいつと話してる間は桜ちゃん見てもらってて」
「馬鹿言うな!」
「あっくんどう思う?」
「……正直気は進まねぇよ」
「ほら!」
蒼志は難しい顔をして、ちらりと桜の方に顔を向けた。
……あ。まずい。
「桜、お前どうしたい?」
「いやいや蒼志さんあの」
「さくらもいく!!」
「ほらぁああ……!」
「さくらもいっしょにいくの!!」
そんなこと言ったら、桜のことだ。行くって言うに決まっている。
しかも桜に甘い蒼志は、仕方ないな、みたいな表情で頷いていた。
ああもう…!
「……桜のこと、ぜっっったいに危ない目に会わせないようにしてくれんの」
「ああ」
「絶対だからな」
「わかってる」
勿論俺だって桜を第一に考えるけど。腕力で言ったら、確実に負けるし。
俺は大きく息を吐いて、腕に抱えていた桜を、ゆっくり床に下ろした。
「……桜、出かける準備しよっか」
「っうん!」
あーあ。本当に悪い兄だ。
絶対こんなこと、したらいけないのに。
「うううう……」
「泣くなって」
「泣いてない!」
俺の頭を撫でようとする手を振り払ったら、蒼志は可笑しそうに笑った。
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