「さ、さくら?」
「やだ!!」
「やだじゃなくて」
「だめなの!!!」
出て行こうとして、彼女の言葉に驚いて立ち止まっていた蒼志の服を、桜はぶすっと頬を膨らませたままぎゅっと掴んだ。
「だめ!!」
「桜、わがまま言わないの」
「わがままじゃないもん!!」
何がそんなに嫌なのか、俺にはわからない。
だけど、桜は嫌だ、と蒼志の服から手を離そうとしなかった。
駄目だよ、桜。俺だって本当は、さ。でも、駄目なんだ。
「いい加減にしなさい!」
「やだぁあ!」
「桜!」
「つーちゃのばかああ!!」
「っ、さくら!!」
蒼志から遠ざけようと、桜を抱き上げるために手を伸ばしても、いや、と蒼志の脚にぎゅっとしがみつく。
どうして、ねぇ、桜。言うこと聞いてよ。
桜をひとりにしたくないし、蒼志達は話をしに行かなきゃいけないし、仕方ないことなのに。
自分が悪いのもわかってる、桜が不安がるのもわかってる。
でも、思い通りにいかなくて、自分の中に罪悪感だとか、不甲斐なさだとか。
そんなものがぐるぐる渦巻いて。
鼻の奥がつんとした。
「……ったく、何でお前まで泣きそうになってんだよ」
呆れたような蒼志の声。
すると彼は、脚にしがみついて泣き始めた桜をそっと片腕で抱き上げて、空いている方の手で俺の額をぺちりと軽く叩いた。
「っ、だって、桜が!」
「やなの!!」
「桜!!」
「やだ!!!」
「はいはい、わかったからわかったから」
そのままぐしゃぐしゃ、髪をかきまぜられたと思ったら、軽い力で頭を引き寄せられる。
一歩、蒼志に近付く。ぐしぐしと泣く桜の顔も、近くになった。
「ふたりとも泣くなっつの」
「あう……」
「ううう……」
泣いてない、……まだ。
だけどそれ以上言えなくなって。
悔しくて、抱き上げられてる桜ごと、蒼志にぎゅっと抱き着く。
桜も泣くのをやめて、俺の首にぎゅっと抱き着いてきた。
「……ええと、俺、邪魔かな」
しばらく経って、緒方の声が俺たちの耳に届いた。
……いや、別に、忘れてたわけではないんだけど、うん。
ちょっと気恥ずかしくなって、蒼志から桜を受け取って、緒方の方に目をやる。
ちなみに桜は、蒼志の服をしっかり握っていた。
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