「やだあああつーちゃといっしょにいるうううう!!」
困った。非常に困った。
「父さんと一緒に行かないと」
「やあああ!」
桜が、言うことを聞いてくれません。
…昨日心配かけさせて、一緒に居たいってくれるのは嬉しいんだけど、幼稚園を休ませるのもなぁ。
明らかに殴られた痣付けたまま、しかも制服着ないで送りに行ったり迎えに行ったりしたら問題だろうと今日は父さんが送迎してくれるって話なんだけど、さっきから桜は俺に引っ付いて手を離さない。
嬉しいけど。嬉しいけどさ!
桜マジで天使だけどさ!
悪いのは俺だしあんまり強く言えないときた。
やっと泣き止んだのにまた泣きそうな桜を無理に引き剥がせず、どうするか困る。
成り行きを見てた蒼志も父さんも、桜がここまで言うのでお手上げ状態だ。
「桜」
「…つーちゃんと、いっしょに、いるもん」
「うう……」
可愛い。俺も泣きそう。
「そうだ、今日幼稚園行ってくれたら晩御飯は桜の好きなハンバーグにしよっか」
「……はんばーぐすきじゃないもん」
「ええ……」
まさかの。本当は好きなのに。ここまで言わせちゃうのは、兄としてどうなんだ。
どうすればいいんだ。
「さくらー…」
「つーちゃんといるの!」
「明日からずっと一緒にいるからさ、お兄ちゃん桜に幼稚園に行って元気に遊んでもらいたいなー…?」
「や!」
蒼志と昨日と言うか寝る前に、今日は例の人達と一応話を付けに行くことになっている。
蒼志だけで行くつもりだったらしいが、宇月ってひととか、あとスバルさんも今後どうして行くのかきちんと聞いておきたいから、俺も連れて行ってもらうつもりだった。
「仕方ないね、司、今日は桜も離れないだろうし、お休みさせよう」
「……うん、お休みの連絡しておく」
「あっちゃんもよろしくね」
「はい」
父さんもどうにも出来ないと悟ったようだった。…ごめん、父さん。
「桜、今日だけだよ?」
「うん!」
「じゃあ、行ってくるね」
そう言って鞄を持った父さんを、桜を抱っこして玄関まで送る。
「行ってらっしゃい」
「いってらっしゃい!」
「……」
「ほら蒼志も」
「……行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
ぱたん、と扉が閉まる。
にこにこしてる桜が可愛くて、怒る気にはなれなかった。
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