料理が出来ないと言う蒼志には、いつもより少し早めに起きてきた父さんと一緒に盛り付けや出来たものをテーブルに運んでもらった。
「そろそろ桜起こそうか」
いつもよりちょっぴり、起きるには早い時間。
父さんが寝室の方に向かう。
「…なんか緊張する」
「そうだな」
蒼志も頭を掻いて、頷いた。
一日も空けた訳じゃないけど、すごく久々に会う気がする。
ばた、ばたと廊下を走る音が聞こえて、いつもの彼女ならあり得ない位の勢いでリビングの扉が開く。
「桜」
「……」
呆然と俺を見る桜の元に駆け寄って、しゃがんで目線を合わせる。
「ごめんね、ただいま」
小さな小さな身体を抱き締めて。
あの時手離してしまって、悲しい思いをさせた桜を抱き締めて。
「っ、つーちゃ、つーちゃん…ッ!」
「うん、つーちゃんだよ」
「ひ、ぅあ、うあああんっ!」
大きな声で、自分の名前を呼ぶ彼女が、とても愛おしい。
あの時も泣いていたのに、ぎゅっとしてあげられなかった。
桜の泣き声と一緒に泣けてきて、抱き締めながらぐすりと鼻を啜る。
本当に、無事でよかった。
「うぇ、ううう…っ!つーちゃ、」
「ごめんね」
泣き止まない桜を抱き上げ振り返る。
蒼志も泣きそうな顔で、俺たちを見ていた。
「あのね、あっちゃんが助けてくれたんだよ」
「…司」
自分の所為で巻き込まれたから、そうじゃないと言いたいんだろうか。
でもそんなこと構わず、蒼志のそばに行くと、桜は泣きながら蒼志に手を伸ばして、服を握った。
「…ふぇ、えう、…」
「……ごめんな」
「な、で、あやまる、の、…?」
「……ひとりにして、迎えに行けなくて、悪かった」
ぽすりと蒼志の手が桜の頭を撫でる。
それから桜は更に声を上げて泣いて、泣いて泣いて、ずっと、俺と蒼志から手を離そうとはしなかった。
可愛い可愛い、桜。
額をぐりぐり合わせて微笑めば、涙を流しながら、桜は笑った。
17.それでね、
(幸せな)(朝)
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