「蒼志」
「………」
「朝ですよー」
さあ、朝である。
父さんは無理しなくて良いって夜に言ってたけど、どうも習慣は抜けないもので、いつもの時間に目が覚めた。
俺を抱き締めて寝てる男の腕を外すのも、もう習慣になっている。
近くにある顔に声をかけ続けると眉間に皺が寄り、うっすらと瞼が開いた。……目つき悪いな。
「蒼志ー」
「……るせ」
「うるさくない、ほら手どけて」
「………」
「どけなさい」
「………」
強めに言うと、ふっと腕の力が弱くなって、そのタイミングで身体をよじって腕の中から抜け出す。
ちょっと機嫌悪そうな顔でこっちを見てると思ったら、ごそごそと布団を頭まで被ってしまった。
「桜に謝るんだろ」
「………」
「お前も一緒に何か作ってさ、桜喜ばせてあげるとかさ」
「……鍋、ばくはつするぞ」
「鍋使わないよ」
布団の上から身体を叩けば、逃れるように蒼志はやっと起き上がった。
朝は相変わらず弱いらしい。桜に謝ることが嫌とかじゃなくて、純粋に眠いんだろう。まだぼーっとしていた。
「つかさ」
「うん?」
「……なんでもねぇ」
「何だよ」
目を擦り、立ち上がると俺より身長が高いだけに見上げなければならず、何故か口を濁す蒼志を喉元を少し反らして見続けていると、ほんの少し目線が動いて、大層小さい声が鼓膜を揺らした。
「たまごやき」
…舌っ足らずに、まあ、ええと、正直言えば、可愛くなくもないかもしれない。
いつもより断然幼く見える蒼志の頭をつま先立ちして撫でようと手を向けたら、その手を今度は取られて指先を噛みつかれた。
俺の指は食べ物じゃないのに。
全然可愛くない。
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