「………、泣いてんの?」
「……うるせぇ、悪いか」
「はは」
湯が当たって傷とか痣が沁みる中汚れを落とし、風呂から上がってリビングに戻ると、ちょっとだけ肩を震わせて目元を擦る蒼志が居た。
父さんは救急箱を準備していて、相変わらずいつも通りにこにこしている。
悪いことには、ならなかったんだろう。
ほら、俺の言った通りだ。
鼻声の蒼志の頭にぽんぽんと軽く手を置けば、ちょっと嫌そうにこっちを睨んだ。
赤い目して怖くもない。
「あっちゃんも、お風呂入ってきなさい」
「…はい」
「司はこっち」
「ん」
俺よりは汚れてないと言っても、あれだけ暴れたから蒼志もそれなりだ。
大人しく従って風呂場の方に向かって行った。後で服とか出しておいてあげよう。
「随分やられたね」
「でもやり返した、ちょっとだけ。あんまり良いことじゃないけど」
「それがわかってるなら我慢しなさいね」
「いたたた…!」
父さんは容赦無く傷口に消毒液を塗りたくった。滅茶苦茶痛い。
それから絆創膏を貼ったり、痣のところは湿布貼ったり、骨が折れてるような痛みはなかったから、医者には行かなくてすみそうだ。
「明日は休みなさい」
このままの姿で学校に行ったら先生に呼ばれて、停学かもしれない。
明日休めば次は土日だから、月曜には目立つ場所の痣も傷も少しは良くなっている、と、信じたい。
カーディガンとか着ておけばばれる心配もなさそうだ。
「あのさ、父さん」
「うん?」
「もう、知ってると、思うけど、…その、蒼志と、付き合ってる、んだ、……と思う、多分」
「…多分?」
「いや、それ前提で話してたりするんだけど、蒼志とか他のひともさらっと流してそう言ったりするんだけど、…ほんとのとこ、きちんと明確にはしてないんじゃないかなって、思って」
別れたくないって言葉は、付き合ってるから出てくる言葉ではあるものの、付き合おうか、とは、言った記憶がない。
無意識のうちに付き合ってるとか言って蒼志もそう言ってるけど、やっぱり、よくよくじっくり考えると、付き合ってると言っていいのかどうか、わからない。
「あっちゃんに聞いてみなさい」
「う、…ん」
「きっと怒られるよ」
「……やだなぁ、怒られるの」
「でも気になるなら聞いてあげなさい」
蒼志に聞いたら、今更か、とか、当たり前だろって返ってくるのはわかってる。
でも何か引っ掛かるところがあるのは確かで。
「さ、そろそろ父さんは寝ようかな」
「あ、こんな時間まで、迷惑かけてごめん、ありがとう」
「おやすみ、あっちゃんにも伝えておいてね」
「うん、おやすみ」
そうだ、もう後何時間もしないうちに父さんは仕事に行かないといけないのに。
今度ちゃんと、親孝行しないとなぁ。
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