side 父
肩の力を抜いて大きく息を吐き出して、無理にいつもはしない固い顔をしていた所為か、頬のあたりが少し痛い。
「意地悪言ってごめんね」
「……は、?」
「ほら、一応親としてね、ちゃんと聞いておいた方がいいかと思って」
「………」
彼のこんな呆けた顔も珍しい。
言葉は悪かったけど、でもそうして彼の心意を聞けたこともある。
必要悪、ってやつかな。
「僕はね、あっちゃん。君に感謝してるんだよ」
「何で、です、か」
「今回みたいなことがまたあったら僕も怖いし、桜も悲しむけど、それこそ司は何度同じ目にあっても、君と離れるつもりはないって言うだろう」
そういう子だ。
僕や桜を蔑ろにする訳でもなく、でも君を望む。
「妻が亡くなってから、司は僕達家族のことが一番だった。でも君が家に来てくれるようになって、そこに君も加わった」
「……今でも、司は家族を何より大事にしてる」
「わかってるよ、十分。家族の時間を大切にしてくれてる」
だけどね。君と出会ってから、それ以外のことも大事にしてる。
遊んだり、ふざけたり、家族だけじゃ出来ないことを知った。
「感謝してるんだ。あの子があんなに楽しそうにしてる姿が、こんなに嬉しいものだなんて、知らなかった」
僕と桜以外に向けられた、あの笑顔を感情を引き出してくれたのは、彼だった。
「これからもよろしくね」
「……はい、…ありがとうございます」
「こちらこそ」
司は、とても大事なひとに出会えた。
それが同性で、この先どうなるかわからなくても。
少なくとも、僕だけは彼らの味方でいようと思った。
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