不良とシスコン、時々天使 | ナノ


side 父


「さて、…どこから話そうかな」

ソファーに彼を座らせて、その向かいに腰を下ろす。
彼は緊張した面持ちで、それでも僕の顔から視線を外すことはなく、きっと司のことだ、彼ときちんと話してきたのだろう。

「今回のは、あっちゃんに関することで、司が巻き込まれたって形だね?」
「はい」
「蹴りはつけたの?」
「…一応は、ですけど、明日にでもまた話してきます」
「そう」

桜の通う幼稚園から、焦ったような電話が会社にかかってきた時は驚いた。
桜がひとりで居るところを、通りがかりの女性が幼稚園まで連れてきてくれて、でも司が迎えにきていたはずなのに、と、幼稚園側では大騒ぎだったらしい。

急いで桜を迎えに行けば、その間ずっと桜は泣き続けていて、遅くまで残っていた先生は、警察に連絡しますか、と青ざめた顔をしていた。

「あっちゃんのことは、僕はよく知らないけど、こうなることもあるんじゃないかなって思ってたよ。まさか桜も巻き込まれるとは思ってなかったけどね」
「……すみません」

だから、警察にはまだ連絡しないように頼んだ。
本当はそうした方が良いに決まっているし、大丈夫です、なんて言うのも父親としておかしいとわかっていながら。

「君は司を巻き込んで、桜も、僕も、それから幼稚園の方や色んな方を巻き込んで、心配かけて、司にだって怪我をさせた」
「………」

「それでも、司の傍に居れると思ってるのかな」

じっと、彼を見据える。
責めるように、じっと。
だけど彼は絶対に俯いたりしなかった。


「俺は、これからもあいつの傍に、居ます」


膝の上に置いた手を強く強く握り締めて、彼はそう言った。

「桜も泣かせて、貴方にも迷惑かけて、心配させて、司にも怪我させて、本当はこんなこと言える立場じゃないとわかってます。これからだって、いくら気を付けてもあいつに何かあるかもしれない。だけど、あいつの、司の傍から離れたくない。離れられない」
「君と司は高校生だ。それに男同士でもある。親である僕が認めないと言ったら、どうする?」
「認めて貰います」
「嫌だと言ったら?」
「それでも」

お願いします。

と、彼はそこで初めて僕から目線を外して、頭を下げた。
相変わらず握り締めている拳の指のあたりは、皮が擦れて、血が滲んだような痕がある。

司がお風呂から上がってくるのも、時間の問題だ。

「蒼志くん」

静かに、静かに彼の名前を呼ぶと、顔を上げた彼もまた、司のような顔をしていた。
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