side 蒼志
目の前で丸まるようにしゃがみ込む姿が、泣きそうな声が、どこまでも心臓を握り締めた。
一歩踏み出して、自分が取ろうとした行動が安直なものに気付いて、足を止めた。
ここで一緒にしゃがみ込んで抱き締めて悪かったと一言謝れば、司はきっと怒るだろう。
抱えてきたものを吐き出すまでは、司は許さない。そう言う奴だと知っている。
そう言う奴だから、一緒に居られた。
「……自信、ねぇんだよ」
「なに、が」
「全部」
「……ぜんぶ?」
「お前を、守るだとか、そう言うの」
「ッ、俺は守って欲しいなんて、」
「わかってる」
誰も守って欲しいなんて言われてない。
ただ自分が勝手に考えて、それが今回出来なくて、大丈夫だろうと思っていた何かが、…大丈夫だろうと思い込んでいた何かが、もう違うところまで食い込んでいた。
「全部、自己満足だよ」
「……」
「怖いんだ」
「……」
「お前が居なくなるのが」
「………俺、そんな、簡単な気持ちで好きだって、言ってない」
「それが変わるのが怖いから、自分から切り離せば楽だと思った」
離れたら、忘れられるかもしれない。
きっと時間が経てば、違う奴とまた付き合って、この時の気持ちを飲み込めると思う。
「………司」
「…なに?」
「無理だと、思うか」
「言ってくれないと、わかんない」
「お前を好きだってこと、忘れられないと思うか」
「思わない」
「…そうか」
「蒼志は俺と別れたら、きっとまた違うひとを好きになって、すぐに俺のこと忘れると思う」
「…そんな薄情じゃねぇよ、馬鹿」
「俺もきっと、蒼志と別れたら、違うひと好きになって、蒼志のこと忘れるよ、馬鹿」
「薄情者」
「わかってるくせに」
「……そうだな」
そんなことは、どうせ、お互いに無理だ。
忘れるには、どうしたって。
一生をどうにかしようとは思えない。
何がこの先あるかわからない。
だけど、今だけは。
「悪かった」
「……ん」
「あれ、全部、取り消せ」
「嫌だって言ったら」
「言わないだろ、お前は」
「……うぬぼれんな、ばか」
しゃがみ込んで、司の頭の上に手を乗せる。
漸く顔を上げた顔は、不細工に歪んでいた。
でもそれがどうしようもなく、俺には。
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