アンズさんが殴りながら言い続けた結果、惚れた弱みか、もうそこで悟ったのか、彼はもうしない、と言った。
それを聞いてぴたりとアンズさんは殴るのをやめ、手に掴んでいたハイヒールを地面に落とした。
周りのひとが痴話喧嘩、とも言ってたけど、…それとは少し、違うんじゃないかな。
「じゃ、終わったし帰ろう」
「…そう言う訳にはいかねぇだろ」
「じゃあどうすんの」
「……」
「元凶はもうしないって言った、他の奴らもそんな元気なさそうだし、ここに居て後は何すんの?」
きっとあの様子じゃどうこうすることは無い。
何となく、項垂れている彼を見てそう思った。
アンズさんもそうなんだろう。
すっきりした顔で、後できちんと話し合いをする、と言っていた。
「まだ殴り足りないなら俺でも殴れば」
「馬鹿言うな」
「蒼志」
「……わかったよ」
頭をがしりと掻いて、蒼志は溜息をついた。
「ありがとう、来てくれて」
「…おう」
お互いきっと、抱えてる言葉も思いも、沢山ある。
だけどそれは少しだけ仕舞って飲み込んで。
「そう言えば緒方は?」
「宇月捕まえに行ってんだろ、多分」
「正直、宇月だけはもう一度殴りたい」
「…何で」
「桜のこと泣かせたから」
「……歪みねぇな、シスコン」
「知ってる」
家に帰りたい。
隣に、このひとを連れて。
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