side 蒼志
司がこちら側に居ると思えば、後は余計なことを考えずに直線であいつに向かえる。
あいつ以外は、誰かがどうにかするはずだ。
どこかに逃げた宇月も、陸が捕まえるだろう。
「まさかあの状態で逃げられるとはなー」
「……」
「あれが居たら、お前のこともどうにでも出来たのに」
一度、この男を殴ったことがあった。
百崎がどうの、そう言って向かってきたからそれ相応に対応して、それで終わりだと。
「まだ百崎に固執してんのか」
「…っは、それだけじゃねぇよ、ただお前ぶっ潰したいんだよ」
だからそのために司を捕まえて、怪我させて。
…俺が、司の傍に居たから。
「それにしてもなぁ、まさかお前があれとなぁ」
「…うるせぇな」
「知った時は笑ったよ、あんなどこにでも居そうな、しかも男なんて」
「うるせぇっつってんだよ」
勢いをつけて振り被ると、当たり前にそれは避けられ、空気を切る音だけが聞こえた。
それから、不快な笑い声が耳に届く。
「大分疲れてんな?」
「…お前が小賢しい真似したお陰でな」
「こうでもしないと俺に勝ち目はないだろ?」
「どうだかな」
疲労感はある。あれだけの人数を相手にしたことはないから。
ただ、もうそれは関係なかった。
殺すまで殴らないと気が済まない。
自分に対する苛立ちもこれで発散させようとしているとわかっていても。
← top →