「入り口の方まで走れるか」
「そうしたいのは山々なんだけど…」
俺を足蹴りにしていた男は、蒼志を見ると逃げるように何処かに行ってしまった。
抱え起こされて縄を解いてくれようとしてもそれは思いの外頑丈だったらしく、刃物でも使わない限り無理そうだ。
そのまま俺もあの男よろしく逃げられれば良かったんだけど、…他の奴らがそうしてはくれなかった。
喧嘩も出来ない上に、そもそも腕も使えない俺は完全にお荷物で。
取り囲まれて、俺を庇いながら周りを蹴散らしていく蒼志に、謝りたくなった。
逃げない方が、あそこで大人しく待っていた方が。
本当は。
「あっくん!司ちゃん!」
「…緒方、…?」
「陸!司どっか連れてけ!」
「りょーかい!」
「ちょ、待っ…!」
確かに俺が離れた方が良いんだろう。
だけど緒方が来たなら、俺じゃなくて蒼志と一緒に居てふたりで片付けた方が良いんじゃないか。
「緒方!」
「いーのいーの、あっくん強いから!」
「でも、」
「それにしても司ちゃん、良く宇月から逃げれたね!」
「宇月?」
「司ちゃんの側にずっと居たやつー」
「あー、…蹴った?」
「うっは、マジで!」
緒方に背中を押されながら入り口の方まで走る。
扉の方に近付けば近付く程見たことのある人達が増えて、ここまで来れば、とやっとそこで足を止めた。
「誰かナイフ持ってない?」
「いや、…ちょっと探してきます」
「よろしくー」
緒方の問い掛けに頷くひとは居なくて、例の後輩三人組のひとりが何処かに向かって行った。
少し遠くで倒れてる喧嘩相手が持ってないか、ひっくり返したりして探しているようだ。
「司ちゃん、座る?」
「……すわる」
ここには味方ばかりで、蹴られることも殴られることもない。
壁に背中を預けて、ずるずるとその場に座り込んだ。
「……めっちゃ怖かった」
「うん、…ごめんね」
「別に、緒方が俺殴った訳じゃないし」
「そうだけどさ、そう言うんじゃなくて」
「わかってるよ、でも緒方は最初から俺に忠告してくれてたし、ひとりで帰った俺も悪い」
隣に同じように座り込んだ緒方は、何か俺よりも泣きそうだった。
ちょっと犬みたいだ。
泣きそうな、……泣く、…………そうだ…!
「桜は!?」
「えっ」
「桜!今どうしてる!?無事!?」
「え、あ、うん、春日野からは、桜ちゃん見付けてくれたひとが幼稚園の方に送ってくれたって」
「……そっか…」
良かった。何よりもそれが聞けて良かった。
桜に何かあったら、本当に、蒼志を止めるどころじゃなくなってたかもしれない。
「…あっくんもね、同んなじこと聞いてたんだよ」
「蒼志が?」
「春日野に、桜ちゃんはどうしてるーって」
「……はは、」
きっと俺が心配するだろうって気付いたから。
誰よりも、あいつは俺のことを、わかってるんだ。
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