蜘蛛の子を散らすよう、の逆の表現って何て言えば良いんだろう。
蒼志の方に皆わっと集まって、誰が誰だか全くわからない。
入り口からはきっとあの店に居た蒼志の仲間にあたるひとたちが入ってきてるとは思うけど、こちら側からはただの乱闘にしか見えず、味方とか敵とかわかってるんだろうか。
ここで俺が逃げたせたら。
この混乱に乗じて、逃げることが出来たら。
…蒼志は、少しでも落ち着きを取り戻してくれるだろうか。
「……腕の、解いてくんない」
「逃げんの?」
「当たり前」
「隣に俺がいるのに?」
「それでも」
勝機はゼロ、じゃない、と思いたい。
無傷で済むはずないけど、それはしょうがないし。
「解くわけないっしょ」
「………」
「わかってるよなー、お前人質だし」
そもそもこいつらに殴られたり蹴られたり、散々な扱い受けてるんだから、というか殺害予告もされてるし、大人しく待ってて、無事な可能性の方が低いんじゃないかってくらいだ。
それに、何より、だよ。
「俺さ」
「何だよ、解かねーって」
へらへら笑って、俺の肩ぱしぱし叩いて、いつまでもこっちを馬鹿にしたように見下して。
「お前が一番嫌いなんだ、よ…ッ!」
ムカつくことこの上ない、この野郎。
ソファーに座ってた状態から立ち上がって、隣の男の顔に向かって、思い切り蹴りを入れてみた。
喧嘩したこともない俺の蹴りなんて大した威力もないだろうけど、油断してた状態では少しは有効だったらしい。
「ってェ…!」
ごめん、桜、父さん、母さん。
人の顔蹴るとか、今後しないようにするから、今回は許してください。
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