不良とシスコン、時々天使 | ナノ


今まで俺を見張っていた奴が俺に向かって、馬鹿だな、と一言零した。
何のことだと思っていると、リーダーの男がこっちに向かって歩き、座る俺の前に立ち身体を屈めてから、背凭れに、それも俺の肩のすぐ隣に手を付いた。
まるで内緒話をするみたいな近さだった。

「なあ、あいつどうしてた?」
「……アンズさんの、ことですか」
「そう」
「別に、…そんな、詳しくないんで」
「津田と寝てた女のこと、気にならないって?」

蒼志とアンズさんがそういう関係だったのは何と無く分かってたことだし、そんなわかりやすい挑発には乗るつもりもない。
実際、彼女について俺が知ってることの方が少ない。

「お前と津田がそうなら、あいつはフラれたってことだよな」
「………」
「何でまだ、津田の側にいるだろうな?」
「…さあ、俺にはわからな、ッ!」

知るはずも無くて、目線を下ろした瞬間に腹部に鈍い痛みが走る。

痛みで吐きそうになっても、すぐに首を掴まれて顔を上げさせられた。
男は、底冷えのするような瞳で、じっと俺を見下ろしている。

「何でアンズはまだあいつのところに居るんだ」
「ッげほ、…っ、知らな、」
「どうして俺の方に来ない」
「…っくる、し、…!」
「なあ、」

「スバルさん」

呼吸が本気で苦しくなってきた時、隣の男が誰かの名前を呼んだ。

「そいつ、弱いんで死んじゃいますよ」
「………」
「やんなら津田の前にしましょーよ」
「……そうだな」

漸く手が話されて、入り込む酸素に盛大に噎せた。息出来る様になって助かったけど、軽く殺害予告を受けた気がする。



「……さっきので分かったと思うけど、あのひとアンズさんのこと好きなんだよ」
「………よくわかった」
「単純に津田をぶちのめしたいのもあるだろうけど、ありゃアンズさんも随分関わってるよなー」
「だろうな」
「昔アンズさんのこと怪我させたから、責任取るとか何とか思い込んで、変なとこ律儀っつーかなんつーか。マジ馬鹿だよなー」

あのスバル、と呼ばれたリーダーのやつは俺に興味を無くしたらしく、すぐに騒いでる奴らの元に向かって、今はもう最初に見た余裕そうな顔で会話をしている。
その姿を痛む腹に耐えながら、隣の男と眺めていた。

「男にせよ女にせよ、嫉妬って怖いと思わねぇ?」
「……お前、あのスバル?ってひとのこと結構馬鹿にしてんだろ」
「そりゃ、津田みたいな化け物じみた強さはねーし、過去の女に拘りまくってるし、面倒なひとだけど、尊敬してるとこもあるっての」
「……へえ」
「顔とか」

何だそれ。
溜息の代わりに咳が出て、それと同時に、扉が開く大きな音がした。

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