外で、怒声が聞こえた。
「…来たな」
ぴたりと室内は嘘みたいに静まり、リーダーと言われていた男がそう楽しそうに笑った。
来た、って。
勿論、蒼志達で。
来て欲しいとは思ってたし、来ない訳ないだろうとは思ってたけど、でも。
嬉しい反面、申し訳なさとか、俺があんな簡単に捕まらなければとか、色んなものがどっと押し寄せる。
だって俺、今まで普通に喧嘩なんて全然したことない普通の高校生で、そんな、急に喧嘩とか出来る訳もなくて、やっぱり怖いし、でも、蒼志の所為だけでもなくて。
わかんなくなってきた、ぐちゃぐちゃだ。
段々と周りの奴らは俺とは逆にテンションが上がってきたらしく、あちこちで誰々を殴るとか、そんな話をしていた。
取り残された俺は、結局、呆けた顔で座っているしかない。
「………アンズ」
ただ、知っている名前が、急に聞こえて。
偶然と言ってもいい、それはとても小さな声だった。
あのリーダーの男が発したとは思えないくらい、小さな小さな声。
その声が、あまりにも。
「……アンズさん…?」
あまりにも、哀しそうで、切なそうで。
「………何だ、お前もアンズに会ったことあんのか」
ここに、彼女は居ない。
それでも彼女の名前を呼んだのはきっと、そういうことなんだ。
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