車に押し込まれ、目隠しする程徹底された状態で、時間も場所もわからない移動。
運転しているらしい男と、俺を連れてきた男が時折何かを話している。
煙草の臭いが、気持ち悪い。
蒼志や緒方とか、あと他の蒼志の近くにいたひとたちと同じ、いや厳密に言えば少し違うだろうけど、それなのに、何だが凄く、気分が悪くなる臭いだった。
「手引っ張るから、ついてきて」
何処かに着いたらしい。
誰かの手が俺を引っ張る。
車から出ると、思ったより静かで、ただ部屋か何か、そこに入った瞬間にひとのざわめきが大きかった。
あれが、とか、あんなのが、とか、ほんとかよ、とか。
多分失礼なこと言われてる気がする。
そうだよ、俺は別に、喧嘩が出来る訳じゃない、普通の、男子高校生だよ。
ただ蒼志と、居るだけの。
……ただ、一緒に居たかっただけなんだ。
それがどうして、こんなことになったんだろう。
蒼志が喧嘩とかしなくて、もしくは俺と桜があの見つけた時に世話をしなかったら、こんな場所とは無関係、だった。
好きだとかいう感情も持たなかったし、桜も泣かなかったし、俺も殴られなかった。
「なあ」
「……なに」
ざわめきの中、俺の手を引く男が声を潜めた。
「馬鹿なこと、考えない方がいい」
「別に、もう今更逃げられるとは思ってない」
「そうじゃなくてさ」
「は?」
「や、何でもない」
目が見えない今、男がどこに向かってどんな顔をしているのかわからなかった。
馬鹿なこと。
これは馬鹿なこと、なんだろうか。
こんなことに巻き込まれても、まだ蒼志を好きなのは、馬鹿なこと、なんだろうか。
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