桜を置いて、男の後ろを暫く歩く。
これからどうなるんだろうってことより、とにかく桜が心配で仕方なかった。
電話をかけた相手は誰だろう、蒼志か、父さんか、ああそういえば昨日春日野に電話したから、彼かもしれない。
繋がったかな。繋がってないかな。繋がってたら、桜の声に、気付いてくれたかな。
桜を、誰か親切なひとが保護してくれてたらいいけど。
でも、もし。
もし誘拐、なんて、されてしまったら。
「…っうわ、お前なに?何なの?」
「……は…?」
「いや何急に泣いてんの?怖いわけ?つーかそんくらいで泣く?」
男は立ち止まって、俺のことを心底面倒そうに眺めていた。
勝手に出てきた涙だけど、そりゃ、桜が心配で心配で、何か危ないことに巻き込まれてないか怖いさ。
「津田と連んでるっつーからもっと骨のある奴だと思ったのになー、んなにすぐ泣かれたらあれじゃん、弱い者イジメしてるみてー」
「……その通りだろ」
「あ?」
「子供を脅しの材料に使って、あんなか弱い子を、」
「…るっせーな」
がつん、と頬に衝撃を受けて、ぐらりと状態が揺れた。
倒れはしなかったけど、喧嘩慣れしてない俺には十分痛い。
「ごちゃごちゃうるせーっての、自分の立場わかってる?あの餓鬼とっ捕まえて同んなじことしてやろうか?」
今まで蒼志の周りに居たひとたちがどれだけまともだったのか思い知った。
目の前のやつは沸点が低いというか、特にこの状況だと、ちょっとしたお喋りも許されない程度には喧嘩っ早い。
逃げるタイミングは無さそうだ。
というかこんな人通りのない、日が落ちていないのに薄暗く思える道で、俺の脚力で逃げる自信もない。
「ほら、乗って」
脇に停めてあったワゴン車のドアが開かれる。
……なんだそれ、これ、ただの高校生同士の喧嘩じゃ、ないのかよ。
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