玄関を開けると、そこには明らかに怒ってる蒼志が腕を組んで壁に寄り掛かってました。
何でお前そんな怒ってるんだよ…とか聞いたら、殴られそうな気がするくらいである。
「た、だいま…」
「……おかえり」
声も凄い低い。結構怖い。
靴をすぐに脱いで、いそいそと段差をひとつ上がった。
「うわッ」
そうした途端、蒼志に腕を引かれて、肩を壁に押し付けられ、がしゃ、とスーパーの袋が落ちて、中身が少し飛び出した。
「……蒼志、」
「………」
至近距離で、睨むというより、…なんて言うかな。
ああ、そうだ、不安そうな、目。
そんな視線を送ってくるものだから、俺もどうしていいかわからずに、でもこれだけ怒るんだから蒼志も嫌だったってことだろう、すぐに謝ることにした。
「…ごめん、アンズさんと帰り道で会って、話してたら時間遅くなった」
「……何話したんだ」
「ええと、強いて言えば、蒼志と俺のこと、かな」
「何で」
「上手くいったのかどうか、とか…」
あと、踏ん切りついたって。言ってたけど、それは、言わなくていいことだと思う。
「それだけか」
「それだけだよ、何にもない」
「………」
じっと視線は逸らさず断言したら、今度は背中が軋むほど、抱き締められてしまった。
なんだなんだ、もう、どうしたんだ。
でも普段見れない姿がちょっと可愛くて、頬がほんのちょっと緩む。
「もしかして、嫉妬した?」
「……した」
「ばかだなぁ」
背中を軽く叩いて、俺も蒼志の肩のところに頭を押し付けて、もう一度、ばかだなぁ、と言った。
あんな美人さんと一緒に居たのに、ときめくとか、そう言うの、全然なかったんだからな。
「ほら、そろそろ夕飯支度しないと」
「………」
「あ、桜まだ寝てる?」
「……寝てる」
それなら起こして貰って、桜がぐするだろうからそれも蒼志に任せて、その間に夕飯作って、そしたら父さんがきっと帰ってきて。
「蒼志までぐずんなよ」
「…ぐずってねぇよ」
とか言ってる癖に、腕は全然離してくれそうにない。
困ったな。
いや、本当はそんなに、困ってないけどさ。
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