ごめん、帰るの少し遅れる。
簡単なメール文を蒼志にあてて打って、送信。
一人じゃ絶対に入ることはないだろう、女のひとが好きそうな、それでいてけばけばしくない喫茶店に彼女と入ることにした。
頼んだアイスティーふたつ。
アンズさんはよくこの店を利用するそうで、コーヒーよりこっちの方がオススメだと言う。
「それで」
「はい」
すでに数口飲んだはずなのに、喉が渇いて仕方ない。
「うまくいったの?」
「……へ、」
頬杖をついたアンズさんが、赤い唇を楽しそうに、釣り上げた。
「蒼志と、付き合えたの?」
その物言いに悪意は感じないと言うか、ただ本当に、純粋にどうなのか聞いてきている感じだ。
「気になってたのよ、私を振ったくせに、あいつ、全然連絡寄越さないし」
「はあ…」
「これで振られてたら笑ってやろうと思って」
小首を傾げて微笑む姿も、やっぱり様になる。
…ここでドキ、とかするのが健全な男子のはずなのに、くそ、蒼志の所為だ。
「で?結局どうなったの?」
「ええと…」
「うん」
「付き合って、………」
――さて。
ここで俺は重大なことに気が付いた。
俺たちははたして、付き合って、いるのだろうか、と。
確かに、お互い、まあそう言う気持ちがあるのは知ってるし、疑ってないし、キスとかしてるし。
けど、付き合うって話は出てきてない。
世間一般じゃ両想いなら付き合ったことになるのかもしれない、でもそもそも男同士だし、それが通用するのか、わからなかった。
「…付き合ってるんですかね?」
「え、どういうこと?」
「いえ、そういう付き合ってるとかどうとかの話はしてないなぁと」
「蒼志の気持ちはわかってるのよね?」
「はい、俺も同じなんで」
「それ、付き合ってるって言わないの?」
「どうなんですかねぇ…」
アイスティーを飲み込むと、やっと喉の渇きが癒えた気がした。
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