「そうだ、花火やろーよ!」
「はなび!?」
「うん、桜ちゃんも花火やりたいよねー?」
「やりたい!」
とか何とか、夕食の席で緒方が提案したそれは、桜の全力の頷きと、父さんの楽しそうだね、と言うお許しのお陰で実現することになった。
勿論花火の用意もしてないので、近くのコンビニまで緒方と、後嫌々蒼志が行って、俺と父さんと桜はバケツの準備したりして、家で待つことに。
「奮発しちゃった」
コンビニから帰ってきた緒方に渡された袋の中には結構沢山の花火。
流石に打ち上げはなかったけど、筒状のものもいくつかあった。
「うわ、ちょっとあっくん!花火はひとに向けちゃいけないって習ったでしょ!?」
「うるせぇ、近所迷惑だ」
「じゃあ向けないでよー!」
庭で走り回るふたりを、桜と父さんが笑って、ほんとはやったらだめだよ、って桜に当たり前のことを言う俺も、笑って。
あっという間に、時間が、経っていった。
「きれいねー」
ぱちぱち弾ける、線香花火。
結構、みんな真剣だ。
束で買ってきたから、何度だって挑戦している。
すぐに落ちたり、そのまま残ったり。
少し離れた場所で、何となく、俺はそれを眺めていた。
「やらないのか」
「蒼志こそ」
「飽きた」
夏の風物詩に、そんなこと言っちゃって。
桜達の側にある線香花火を数本くすね、俺がさっきまでいた場所に立つ蒼志に一本渡した。
「ん」
「……ん」
ろうそくはここにはあの一本だけだから、しゃがみこんで、ライターで、火を付ける。
すぐに、ぱちぱちと音を立てて、火花が散った。
「あ、」
「……へったくそー」
「…るせぇな」
数秒で蒼志の持っていた線香花火から火の球体が落ちる。
うまくいかないから飽きた、なんて言ったんだろうか。変なところ、不器用だ。
その間、俺のは、どんどん、弾けていって、広がっていく。
「ほら蒼志、きれい、」
綺麗だろって、自慢しようとしたのに。
ふと、視界が遮られて、キス、された。
「……みられたら、どうすんの」
「見てねぇよ」
暗いし、どうせ花火に気を取られてる。
「あーあ、落ちちゃった」
「まだあるだろ」
「えー…」
またやったところで、心臓が跳ねて、長続きしないと、思う。
「蒼志の所為だー」
「責任転嫁」
「違うって」
「はいはい」
そんな風に呆れて笑う癖に、またもう一度、唇を重ねてくる。
線香花火の度に思い出したら、どうしてくれる。
暗闇のまま、あの束がなくなるまで、そんなことを続けた。
14.ほら、こんなに
(……暫く線香花火はいいや)
(わかりやすいな、お前)
(うるさい)
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