side 陸
「りっくん!」
どん、と形容するには軽い力が背中にかかって、振り向くと薄い色素の髪がふたつに結ばれてる女の子がいた。
「びっくりした?」
「うん、ちょーびっくりした!」
目線を合わせるようにしゃがみ込んで、にこにこ笑う子の頭を撫でると、さらに嬉しそうに笑ってくれた。
こりゃ確かにシスコンになっても仕方ないかな。
いつもだったらここでそのお兄ちゃんからお咎めが入るのに、今はその声が聞こえないことを疑問に思う。
「あれ、桜ちゃんひとり?」
「ぱぱもいるよ!」
そう指差す方向には少し離れたところからこっち向かってゆっくり歩いてくる男性。
夏休みだから毎日休みの所為で曜日感覚がおかしくなってたけど、そういえば今日は日曜日だった。
「ども、お久しぶりです」
「久しぶりだね、りっくん」
このお父さんあっての、兄妹なんだろうなぁ。
「りっくん、この後何かあるのかな」
「や、特には」
「じゃありっくんもいっしょにかえろ!」
帰ろう、とは、つまりあの家に、で間違いないだろう。
……ちょうど、司ちゃんとあっくんのことも気になってたし、いい機会かもしれない。
「じゃあ、お邪魔します」
「司も喜ぶよ」
そうだと、良いんだけど。
ほら、種蒔いたの、俺みたいなものだし。
だからこそ、謝りたいんだけど、ね。
「おかえりなさ、…あれ、緒方?」
桜ちゃんとお父さんを玄関まで迎えに来たんだろう司ちゃんに手を振ると、何か気にする風でもなく普通に俺を中に入れてくれる。
「桜ちゃんにナンパされちゃった」
「勘違いも程々にしろ」
あ、流石シスコン。物凄い勢いで睨まれた。
先に入っていったふたりの後を追うように、俺と司ちゃんで廊下を歩く。
それから、リビングに続く、既に開いている扉の前で、一度止まって。
「緒方」
「ん?」
「寝てるから、騒がしくしないでやって」
そう苦笑を零す。
その視線の先には、まだ広さが残ってるのに、背凭れの方に縮こまって眠る、黒髪の。
「……あー…」
「緒方?」
柄にもなく、ちょっと泣きそうになった。
よかった。
ほんとに、ひとのことなのに、すごく。
「……あのさ、司ちゃん」
「なんだよ」
「後で言い訳するから、その前にちょーっと、殴ってくんない?」
「はあ?」
ぱちんと軽く頬を張られた後、約束通り、俺が仕出かしたことの言い訳をすると、司ちゃんは呆れた顔をして、すぐ、俺にありがとうと言った。
それだけで上手くいったんだって気付いて、やっぱり、泣きそうになった。
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