蝉の声。うるさい。
暑いけどもぞりと布団を被り直そうとして、身体が何かに拘束されてることに気付いた。
……そうだ。
思い出すと顔から火がでそうなくらい、恥ずかしくて、同時に。
すごく、泣きたくなる。
「…起きたのか」
「………そっちこそ」
「勿体ねぇから」
「……あっそ」
顔をそっと上げると、目が合った。
眠そうな顔。俺と違って、寝てないんだろう。
そう言う俺だって、少ししか寝れていないけど。
「蒼志」
「ん」
「…蒼志」
「なんだよ」
「……おはよう」
ぴぴぴ、と、携帯のアラームが鳴った。
夢じゃないんだ。
嬉しくて、腕の中で、こっそり、唇を噛み締めた。
「あっちゃん!おはよう!!あっちゃん!!!」
起きてきた桜は、そりゃもう大喜びだった。
いつもはむにゃむにゃと目を擦ってることもあるのに、今日は蒼志に飛び付いて跳ねている。
「桜、先に顔洗ってきな」
「うん!」
ぱたぱたと小走りで洗面台に向かって行く桜を見送るとすぐ、入れ替わりの様に父さんがリビングに入ってきた。
「父さん、おはよう」
「……ども」
「おはよう、…ふたりとも」
父さんには、全部見破られてしまっている気がする。
でも、言った方がいいのかな、と思って、近付くと、父さんは急に、蒼志の名前を呼んだ。
「蒼志くん」
「はい」
「ちょっとこっち、おいで、司も」
何だろう。
…今更反対されることは、ないとは思うけど。
少し怖くて、でも逆らう訳にもいかず、蒼志と父さんの近くに寄る。
す、と、手を上げられ、もしかして叩かれるんじゃ、ないかと。
「よかったね」
……思ったら、頭を、撫でられた。
同じく蒼志の頭も撫でている。蒼志もちょっと驚いた顔をしていた。
「蒼志くん、司のこと、よろしくね」
「……はい」
「司も、わかってるね」
「……うん」
にこにこと笑う父さんに、すごく安心する。
認められる、それだけで、すごく嬉しかった。
「あ!ずるいー!さくらも!」
「おっと」
「ぱぱ、さくらも!」
洗面所から戻ってきた桜が、父さんの後ろに抱きついて、父さんも笑いながら桜の頭を撫でて。
「……敵わねぇな」
「んー?」
「お前の家族」
「自慢の家族ですから」
そこに蒼志もいるんだけど、とは、流石に言うことはしなかった。
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