久々に収まった腕の中が湿布臭いなんて、ちょっと笑える。
……なんて余裕もなくて、うるさい心臓がそのまま伝わりやしないか、それが心配だった。
「司」
「……なに?」
顔が見えない。
蒼志が、どんな顔をしてるか、見えない。
何て言われるんだろう。
良い返事じゃないとわかっていても、傷付くのは、最小限の言葉が良かった。
「……司」
「なんだよ、」
秒針が、心臓の音より遅い。
「つかさ、…」
何で、そんな、泣きそうな、声、なんだよ、何で、蒼志が。
「すきだ、」
ぽつりと零されたそれが、どういう意味なのか。
理解する前に、鼻の奥がつんとした。
「……なん、で、だって、彼女、いるって、」
「…んなもん、いねぇよ、」
「うそだ、」
「うそで、こんなこと、言えるか」
ぎゅう、と、腕の力が込められた。
苦しい。
苦しくて、息が出来ない。
「司」
「……あお、し、」
背中に腕を回したら、余計、酸素がなくなった。
吸う息も、吐き出す息も、故意に考えないと、心臓が、止まってしまいそうだった。
13.繰り返し
(何度も何度も)
(何度だって)
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