side 蒼志
「いいのか」
「いいの」
「好きだから」
「……俺は、無理だ」
百崎に好きと言われたら、付き合うんだろうと、陸は言った。
確かに、もしそうなれば、そのつもりだった。
だけど、実際にそう言われて、浮かぶのは、あいつばかりで。
あいつは、俺のことをそう思ってないだろうけど。
もしかしたら、違う奴が好きなのかもしれないけど。
「俺は、あいつがすきだから」
そうやって告げれば、百崎は、赤い唇をそのままに、頷いた。
でも、それがあったからと言って、俺と司が元に戻る訳がない。
どうしていいかわからなかった、と言うのが正しいかもしれない。
また喧嘩して、殴って、殴られた。
だから、その後留守電が、あいつからあったことに気付いて、名前を呼ばれて、俺は。
心底、自分が臆病だと知った。
「すき、だ」
泣きそうな顔で笑われたって、まさか夢でも見てるんじゃないかと、疑ってしまう。
何が、困るかもしれない、だ。
困ってんのは、お前じゃねぇか。
「……司」
「蒼志に彼女がいるのは知ってるし、男の俺から、そんなこと言われるのは嫌だと思うけど」
「司、待て、」
「言わないと、俺、どうにも、出来ないと、思って」
矢継ぎ早に、言葉が流れていく。
その後、多分、色々言われたんだと思う。
俺の頭の中には、最初の言葉すら、その意味を理解出来なかった。
「つかさ」
言葉を止める様に名前をきつく呼ぶと、司は、ぐっと押し黙った。
……そんな顔を、させたい訳じゃないのに、名前だけしか、呼べなくて。
「……つかさ、」
臆病で、単純な俺は、司を引き寄せることだけしか、出来なかった。
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