振られることが当たり前だ。
だって、彼女がいるんだから。
言ったら、伝えたら、本当に修復は不可能になるかもしれない。
だけど、何もしない、今のままより。
どうしていけばいいか、考えることが出来るから。
履歴の、何番目だろう。
探す動作が煩わしい。
やっと見つけて、電話をかける。
何コール目かで、ぷつっと音が鳴った。
「あお、」
『こちらは、留守番電話サービスですーー』
女性のアナウンスに、一瞬気がそがれたけど、着信拒否されてないだけ良い。
機械音が、一、二秒。
「………あおし」
名前だけ。幼稚なそれだけ。
それ以外、言葉は出てこなかった。
気付かなかったら、気付くまで。
会いたくなかったら、会えるようになるまで。
部屋の外、道路でエンジン音が聞こえると、期待して、カーテンをあけて、通り過ぎる音に、また、カーテンを閉めて。
三度目から、開けたまま、閉めなくなった。
光に虫が集まるから、電気も消した。
外が白みはじめて、また日が明けるのだと。
携帯はならない。
エンジン音も聞こえない。
なのに。
「………ッ!」
人影が、あって。
そんなの、機械の音よりわかりやすくて。
呼吸するのも忘れて、部屋の扉を開けて、階段を駆け下りて。
あいつの、ところに。
12.彼と彼
(心臓が苦しい)
(蒼志、)
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