朝方、布団の中。
暑いはずなのに、離れがたかった。
ちょっとした息苦しさも慣れてしまって。
「蒼志」
「……んー…」
「起きるから、腕外して」
「……」
「蒼志」
中々俺を拘束する腕は緩まなくて、寝ぼけたままの蒼志を揺する。
本当は俺だって、このまままた眠ってしまいたい。
でも、起きないと。
「蒼志」
幸せでも、きっと、これは違う世界だから。
「つーちゃん、おきて!」
はっとして目を開けると、桜がこちらを見て首を傾げていた。
「え、…あ、…さくら…?」
「つーちゃん、あさだよー」
「…え、…と、ご飯、」
「ぱぱがつくってくれたよ!」
身体を起こして、そのまま項垂れる。
何て事だ、寝坊なんて、滅多にしなかったのに。
今日が休日だったから、まだ良かったかもしれない。
父さんの弁当も作れないとか、そんなの、俺自身許せないし。
「つーちゃん?」
「桜、先リビング行ってて、着替えてくから」
「うんっ」
扉が閉まって、のっそりと布団から足を出して、箪笥から適当に服を引っ張り出した。
ぼーっとする頭。
熱はないんだろうけど、どうにも本調子じゃなかった。
あんな夢を、見てしまった所為か。
…本当、うじうじしすぎて、嫌になる。
決めたことだ、後悔するな。
手すりを掴まりながら階段を下り、リビングの扉を開ける。
「おはよう、父さん」
「おはよう司」
「ごめんね、朝ご飯」
「偶にはいいんだよ」
バターの匂いがした。
桜は席に座ってじっと食卓を眺めてて。
「さあ、食べようか」
「うん」
手を合わせて、いつも通り。
父さんが作った美味しい朝食。
それなのにパンは上手く飲み込めなくて、スープは熱くて、サラダは冷たかった。
「お昼はどこかに食べに行こうか」
「え?」
「夕飯もお父さんが作るよ」
「でも」
「だから、今日はちょっとお休みしなさい」
父さんは、どこまで、わかってるんだろう。
適わないなぁ。
首を縦に振ると、喉の奥に突っかかっていたものが、流れた気がした。
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