side 蒼志
「好きなの」
「……」
「気付いてたでしょ?」
百崎は赤い唇を結んで、俯いた。
女の勘は、男とどうやら違うらしい。
俺が周りから見ても荒れてることと、あいつに会う前のように良く溜まり場に行くようになって、また前のように百崎に会うようになって。
暗い店の外で、そう告げられた。
「…お前は」
「……」
「いいのか」
弱味につけ込んでいるとは思わない。
そういう女じゃない。
ただ、また以前みたく会うように、なったからだ。
「……それでも、いいの」
そんなに強く手を握り締めたら、爪が、きっと。
「蒼志がちゃんと私を好きになってくれるまで、頑張るから」
綺麗にされた爪は、そんなに嫌いじゃなかった。
ただ、そうじゃない、丸みを帯びた平たい爪を、より気に入ってしまっただけだ。
「いいのか」
「いいの」
顔を上げて、赤が綺麗に弧を描く。
「好きだから」
そう言ってしまえば、良かった。あいつに。言えれば。
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