side 蒼志
あの時、関係ないと、言われた時。
一度目は、言えたのに。
二度目は、どうしてだったのか。
消化できない感情を誰かにぶつけて、手当り次第に、殴り続けた。
数日経った今でも、何も、変わらない。
相手の拳や脚を避けなかったはずが、いつの間にか避けるようになっていたことに気付いて、余計に頭に血が上った。
「…あっくん、その位にしときなよ」
「……るせぇ」
汗だか血だかが額を伝って気持ち悪い。
掴んでいたものを投げ捨てて、踏みつける。
あたりで立っているのは俺と陸だけだった。
その陸だって何も手を出していなくて、見ていることしかしていない。
「みんな、あっくんが怖いからどっか行っちゃったよ」
「……」
「嘘、俺がどっか行けって言った」
食えない笑い方をしていた。
それにイラついて睨み付けると、肩をすくめて近くの壁に寄り掛かり、流れるように言葉を発した。
「司ちゃんに誤解与えちゃったの、俺なんだ」
「……ああ?」
「何ていうかな、伝言ゲームの要領で」
「…意味わかんねぇ」
「誤解が誤解を生んで、ってやつ」
どうして、今になって。
…いや、どのタイミングで言われたところで、もう。
「俺としてはさ」
「……」
「どっちでもいいんだ」
「……」
「司ちゃんと付き合おうが、百崎さんと付き合おうが」
「……百崎は、」
「あっくんさ、今、どうでもいいって、思ってるでしょ」
「……」
「今、百崎さんに付き合ってって言われたら、付き合うんでしょ?」
「……」
何も考えず、きっとおそらく、自分は頷いてただろう。
それが不誠実なことでも、ひと時だって、あいつを思い出さずにいられるなら。
「でもさぁ」
「………」
「俺、ふたりの泣いてるとこは見たくないなー」
陸は笑って、空を見上げていた。
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