「お邪魔しまーす」
「ももちゃん!」
次の日、午後になって水内は家を訪れた。
一度寝たら頭の中は存外すっきりしていて、この程度だ、と思うことにした。
もしかしたらもう二度と蒼志と話すことはないかもしれないけど、もしも、もう一度話すことがあったら、ただの友達でいようと決めた。
余計な感情を持ったから、ああなったんだ。
どうしてあの時蒼志が怒っていたのかなんて、蒼志にしかわからないことで、それと同じように蒼志は俺のことがわからなかった。それだけのことだ。
そう思うことに、した。
「…ひっどい顔」
「……うるさい」
普段と変わらないようにしていたつもりが、真逆だったらしい。
桜がお昼寝に入ったところで、水内は俺の顔を見てそう言った。
「あ、そうだ、佐藤」
「んー」
「言い忘れてたんだけど」
「ん」
「振られちゃった」
「……は?」
「お互い辛いだけだからって」
「……」
「そんなの、あんたの勝手じゃん、って」
ソファーの背もたれに寄り掛かって、水内は、だからね、と。
「佐藤の顔、私そっくり」
眉間を寄せて、眉尻を下げて、目を細めて。
無理矢理頬を引き上げて。
泣かないように、耐えてる顔だった。
「ねぇ、佐藤」
「……」
「付き合っちゃおうか、私達」
「……」
「傷の舐め合いみたいかもしれないけど」
「……」
「寂しいもの同士で、忘れちゃおうか」
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