side 陸
暇だった。
暇だったから、そこそこ仲良くして後輩に呼ばれてファミレスを訪れれば、見たこともない、後輩達とは縁もなさそうな男女数人が居て、何で自分がそんな場に呼ばれたんだろうか。
「あ、陸さーん」
見た目より人懐っこいやつらのところに行けば、知らないひとたちはりっくんさん、とどこかで聞いたことのあるような無いようなそんなあだ名を呼ばれる。
あれ、会ったこと、ないよな?
「さっきまで司センパイ、いたんすよ」
「え?司ちゃんいたの?」
話を聞く限り、どうやら司ちゃんの中学のお友達だったらしい。
そっか、りっくん、は桜ちゃんの呼び方だ。
「だから蒼志も呼んだんだ」
「デートなんすよね?」
「……へ?」
「え、陸さん言ってたじゃないですか、この後蒼志さん、大事なひとに会うからーって」
……ちょっと、待った。待った待った待った。
確かに、確かにメールが来て、俺は行けるけど、あっくんは、って送った、けど。
「…まさか、それ、司ちゃんに言った?」
「はあ、まあ」
「………うっわぁ…」
これは、もしかして多大なる誤解を与えてしまったんじゃ、ないだろうか。
「…それで、司ちゃんは」
「夕飯の用事があるからって、桜ちゃんと帰りましたよ」
どうしよう。
結構、まずいんじゃ、ないかと思う。
司ちゃんのことだから、あっくんに何か直接言うことはないかもしれない。
それ以前に、司ちゃんがあっくんをどう思ってるかも確信は持てない。
だけど、これが原因で、何かあったら。
男同士だし、障害は沢山あって、あのふたりがくっついたところで、祝福は出来るし手助けしてあげたいと思っても、すごく脆いものだと、思ってる。
何かのきっかけで、あっさり、崩れてしまうことも、あるくらい。
「あ、俺らそろそろ帰るんで」
「佐藤の友達とか知れて、面白かったわ」
「じゃあ、また、何か縁があれば」
「ん、じゃあねー」
帰るという司ちゃんの友達たちに手をひらひらと振って、完全に彼らが出て行った後、机に突っ伏した。
ろくに喋ってなかったけど、まあ、許してほしいな。
「もー…何でそういう取り方しちゃうかなー…」
「へ?何がっすか?」
「デートとかさぁ…いやデートに違いないのかもしれないけど」
「え?」
こいつらは何も知らないし、そういうことになってるなんて、思いもしてないんだろう。
それが当たり前だ。
「なーんもないといいけど」
「はあ」
ぐっと手を伸ばしてメニュー表を手繰り寄せる。
何も食べる気にならなかったけど一人一品、とか急に思い出して、無難にドリンクバーを頼んだ。
それからあっくんがまた喧嘩してる、とか言う言葉が後輩が出た電話から聞こえて、俺はまた机に突っ伏した。
どうみても俺の所為なので司ちゃんに電話をして弁明を試みようとしても、どうやら後の祭り。
その日、俺の携帯は一度も着信を知らせてはくれなかった。
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