しゃがみ込む俺の頭に、小さな震える声がかかる。
「つーちゃん、あっちゃんは…?」
子供はやっぱり感情に敏感で、いつもと違う俺たちに戸惑っていた。
「……喧嘩、しちゃったんだ」
蒼志はいない。
もしかしたら、これからも。
喧嘩というには一方的で、否定の言葉しか言ってないそれ。
関係ない、なんて。
一度言って、痛い目みたのに、同じことの繰り返しだ。
「ごめんね、桜」
幼い身体を抱き締めると、桜はぎゅっと、俺の服を握り締めた。
「なかないで」
なかなおり、しようよ。
そう泣きながら言った桜に、頷くことは出来なかった。
夕飯の席で何を話したのか覚えていない。
普段通りに振舞えてる気もしないけど、ちゃんと片付けもしたし、やるべきことはやったと思う。
部屋に戻って、携帯を見ると、着信がふたつ、入っていた。
ひとつは水内で、メールもきていた。去り際の言葉と同じ、俺を心配する内容だった。
もうひとつは、何故か、緒方から。
着信は一回きりで、一応、掛け直すべきなんだろうか。
……でも、多分。蒼志とのことだろうから。
怖くて、見なかったことに、した。
「もしもし」
『あ、佐藤、大丈夫だった!?』
まだワンコールくらいしかなってないのに、相変わらず出るのが早い。また携帯を弄ってた時だったのかもしれない。
「今日、悪かったな」
『平気、それより、大丈夫だったの?』
「あー、……うん、平気、じゃ、ないかも」
『え!?』
「殴られたりした訳じゃないから、そこは大丈夫」
むしろ、そうじゃないから、こんなに辛いんだろう。
『明日、あいてる?』
「あいてる」
『小さい時に着てた服出てきたから、桜ちゃんにあげるね』
「ありがとう」
ぷつん、と電話を切った後、頭がぐらぐらとして、すぐに布団に潜り込んだ。
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