「先生、どこ行くんですかぁ?」
「行かないで下さいよぉ」
「お前ら構ってる暇はねぇんだよ」
きゃんきゃん可愛らしく鳴いて俺の周りをまとわりつく生徒。
ああ、俺の名誉のために言っておくが、生徒には一切手は出していない。
「いい子にしてたら、明日相手してやるから」
容姿と見合って可愛いもので、甘い鳥肌立つようなセリフを言ってやれば、その顔を赤くして素直に言うことは聞いてくれた。
順風満帆に見える俺の教師生活。
だが。とあるくそ理事長の所為で実はがったがたである。
「失礼します」
秘書に通されて理事長室に入ると、ソファに寝そべった野郎がいた。
ふざけんな何なんだよ毎回こいつは仕事しろ。
わざとらしく溜息を吐き出してみたものの、目の前の人間は全く気にしないようだ。
「やあ、いらっしゃい」
「何か御用ですか」
「いや別に」
「ぶっ飛ばすぞ」
「あ、話し相手になってくれないかな」
「断る」
「そう言わずにさぁ」
「いい加減にしろ」
こうやって訳のわからない呼び出し、数知れず。
大抵特に何もなく、時々マジで用件があるから面倒臭い。
「俺も暇じゃないんですよ」
「うん、知ってるよ」
「あんたなぁ…」
「でも、私は君とお話したいんだよ」
ソファから腰を上げてこちらを見る理事長は流石というか、顔が整っていて、食えない笑みも思わず見惚れてしまいそうな…いや惚れねぇけど。
中身知ってるからそんなこと絶対有り得ねぇけど。
「理事長」
「なんだい?」
優雅な振る舞い。
穏やかな声色。
そして。
「寝癖ついてます」
「え、嘘!」
ひょこりと跳ねた髪。
思わず笑ってしまった。
「格好付かねぇな、ほんと」
ふわりとその跳ねた髪を撫でれば、何故か困ったように、理事長も笑っていた。
どうでもいいけど、指先にキスとか気色悪いことすんのはやめろ、マジで。
2014.1.20〜2014.03.28
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