「ごめん、やっぱり、俺は、…」
「……わかってる、今までありがとう、」
「ごめん」
遠退いて行く、彼の背中。
結局、駄目だった。
何度目の恋だったろう。
物心ついた時にはすでに同性しか目に入らなくて、初恋もその次も、当然のように男だった。
同類だと思われるひとと付き合っても、異性には勝てないことだってある。
今回もそうだ。
女性が好きになった、その女性と付き合うことになった、だから。
だから、俺は切り捨てられた。
「もしもし、俺だけど」
『どうした?』
「また振られた」
『またかよ』
携帯越しの相手は、全部知っている。
俺がそっちの側だってことも、何度か振られているということも。
「星、見えないな」
『ビルの光が強いからな』
都会の空なんて星ひとつ浮いていない、塵だけが拡散した色。
綺麗かどうか、それすらもわからないが、雲が少しだけ滲んでいるから、写真のようになっていた。
『なあ、俺にしておけよ』
雑踏の中で、耳元に流れる友人の言葉。
立ち止まっても、通行人達は通り抜けてくれるだろうか。
「聞き飽きた」
『大事にするって』
「嫌だ」
『つれねぇの』
「いつものことだろ」
俺が振られて、お前に電話して、お前が俺にそう言って。
いつものこと。
「気の迷いだ」
女しか好きになったことがないひとが、俺を、男を好きになるなんて。
珍しいだけ、偶々、つまり気の迷い、そんな言葉で片付けられる。
『違う』
「どうだか」
『俺はお前が、』
「なあ、俺が次に言う言葉、聞き飽きてんだろ」
何度だって同じ問答を繰り返して、同じ話をして。
続く無言も、もう幾度した?
俺には答えられない。
応えられもしない。
「また明日、じゃあな」
『ああ、……また明日』
切れた電話が、水滴を弾いた。
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