「…何だ、この痕は」
開かれた服、俺の肌に映る赤い鬱血を、恋人は眉を顰めて非難する。
ああそうだ、あんたにつけられた痕じゃない。
「誰とシた」
「…」
「言え、」
「…」
「言えよ…ッ」
首に手が回って、呼吸が苦しくなる。
それでも、俺は何も言えなかった。
学園で人気者である生徒会長、その恋人はただの平凡。
そんな相手を喰う奴が居る、物好きはいるものだ。
最近、転入生がこの学園へとやってきた。
誰に対しても平等で、臆することが無い姿は、学園で活躍する人物達を虜にし、それを好きでいた人間達は疎ましく思った。
俺は疎ましく、妬ましかった。
自分の恋人は、恋人がいながら、他の人間とセックスをしていた。
それでも、許していた。
だって、自分のような取り柄の無い人間が、恋人のポジションにいられるだけで、本来は有り得ないことなのだ。
だから、縋っていた。
それなのに、恋人は、転入生が来てから、浮気をしなくなった。
その分、転入生を構った。
俺とセックスする時間はあった。
でも、恋人らしい行為をすることは、なくなった。
だから、身体を、他人に差し出した。
だって、本当は俺のことなんて、どうでもいいんだろう。
もう、あんたの心は、俺のものじゃないんだろう。
…なんて、始めから、俺のじゃなかっただけで、転入生がものにしただけなんだから。
「俺、は」
「……何だ」
「あんたに、ただ、好きって、言ってもらえたら、よかったんだ」
偽りでも、良かった。
そう言ってくれるだけで、全部、我慢出来た。
「でも、もう、限界なんだ」
「…待、て、」
「ごめんなさい」
「待て、言うな、」
「……ごめん」
「言うな…ッ!」
「別れよう」
愛の無いセックスは、何を生むんだろう。
快感が伴えば、それはそれで、いいのかもしれない。
利が、一致すれば、いいのかもしれない。
苦痛しか、俺には害しか得られないセックスは、何だというんだろう。
元恋人とした最後にしたセックスは、苦しかったけど、愛おしくて、辛かったけど、全部受け入れられたというのに。
「っ、は、…は…ッ」
「おら、へばんなよ」
「ん、ぐ…!」
「おいおい、首絞めんなって」
「そうするとこっちが締まんだよ」
「さいってーだなお前」
笑い声が響く、汚い、声。
俺は一度だって、元恋人に助けを求めたことはなかった。
何度だって、何度も、元恋人以外に身体を暴かれたことはある。
だって、俺は、そうなることが当たり前の立場だった、皆の宝物を奪っていた、偽りだって彼の恋人と名乗っていたのだから、そうなってしまうのは当たり前だった。
ばれないように、していたんだ。
偽りだって、彼は、優しかったから、ばれないように。
痕をつけることだけはやめてくれと、言っていた。
痕をつけてしまえば、あなたたちは裁かれると言えば、大人しく従ってくれた。
痛くて、どうしようもなかったけど、それを我慢すれば、彼の隣に居られた。
何も知らない彼の隣で、笑っていられた。
でも、俺は知ってしまった。
隣に居れないことを。
だから、痕をつける行為を、止めなかった。
それだけだ。
たったそれだけで、隣に居る権利を、失った。
「あんた、は、知らなくて、いいんだ、よ、」
「…ああ?」
「何言ってんだ、こいつ」
「ぜんぶ、ぜんぶ、」
「頭おかしくなってんじゃねーの」
「ああ、会長にふられたんだっけか」
全部、知らなくて、いいんだ。
全部知ってるのは、俺だけでいいんだよ。
end.
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救いの無いお話。
浮気性の会長と、平凡君。
この後全てを知った会長は、どうするんでしょうね。
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