転入生が来てから、俺の人生は、散々です。
普通が取り柄と言って良いほど普通の俺には、恋人は居ませんが、好きな人が居ました。
生徒会書記の漆原です。
喋ったことは、あまりありません。何せ、彼は無口だから。
でも、同じクラスで、俺の存在は認識してくれていたでしょう。
親衛隊には、名前だけ加入しています。
でも、活動はしていません。あんまり追い掛け続けるのも悪いと思うから。
俺はそんなことだけで満足でした。
結ばれるなんて思っていないけど、少しだけ、想っていたかったんです。
「最低だ、お前…!俺と仲良くしてくれたのは、皆に近付くためだったのかよ!」
「違、」
「最低だ!!」
「違う、」
「仲良く、してくれて、俺…っ、嬉しくて、なのに、しんえいたいとか、入ってた、って、あんなの、ひどい、やつらなのに、うぅ、さいていだ、うそつき!」
違う、違います。
確かに、俺は転入生と同室になって、先生から面倒を見るように言われました。
でも、生徒会の人達に、増してや漆原に近付こうなんて、そんな馬鹿なこと。
出来るわけないし、必要ないのに。
「ひっどぉーい」
「「最悪ー」」
「騙すなんて…」
「てめェふざけんなよ」
違うんです、そんなつもりなんて、でも、……でも、あなた達には、こんな言葉も、取り繕った言葉にしか、思えないんですよね。
知っています。
皆、あなた達が知らないだけで。
あなた達の孤独を、理解しようと、しているんですよ。
「………何を言っても、無駄ですね」
「ああ?」
「随分な言い草じゃないですか」
「反省の色ゼロー?」
「「やっぱ酷いやつぅ」」
「うわあああんっ!」
泣き叫ぶ声に、嗚呼、どれだけ自分が泣きたいと思ったことだろう。
もう、俺はどこにも居られない。
転入生の傍に居たから、他の親衛隊の人達にも、疎まれているでしょう。
そして、転入生のまわりの人達には、たった今、敵とみなされた。
「おい漆原、こいつお前のとこの親衛隊なんだ、しっかり躾とけ」
会長、彼は何も悪くない。
きっと、誰も悪くない。もしくは、全員悪い。
誤解を招くようなことをした俺も、話を聞こうとしないあなた達も、理解出来損ねている親衛隊も。
「………た、がみ」
「…は、い」
名前。俺の、名前。
覚えていてくれた、それだけでこんなに嬉しいのに、それは、もう。
手放さなくては、いけないもの。
「ごめんなさい、漆原」
「…どう、して」
「あなたに、迷惑をかけてしまった」
「……そんな、こと、は」
「ごめんなさい」
あなたの仲間である役員の方達に糾弾されるのは辛いでしょう。
あなたの好きな人に追求されるのは辛いでしょう。
「ちが、う、田上は、」
「漆原、駄目です」
「…なん、で」
あなたは優しいから、もしかしたら、気付いているのかもしれない。
けれど、俺が漆原を好きなことは、変えようのない、事実です。
「あなたが好きであることを、偽れません」
「……はっ、馬鹿な奴だな」
「結局、親衛隊は親衛隊ですか」
「かっわいそー」
「「もう行こー」」
「漆原、行くぞ」
泣き喚く転入生に、何度自分がその立場だったらと思ったことだろう。
泣いて許されるのであれば、泣いてしまいたい。
こちらを振り向きながらも遠ざかっていく姿に、何度泣き喚きたいと思ったことだろう。
「さようなら、漆原」
転入生が来てから、俺の人生は、散々です。
(せめて、自分が、上手く喋れて、感情を出せて、留められていたら、…どうなったのかな、田上)
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