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「タカミチ、俺ちょっと生徒会室行ってくるな!」
「俺も行く」
「貴方を呼んだ覚えはありませんよ、逢坂くん」
「そうだよー、ミィは俺たちが招待したけどぉ、君は呼んでないのー」

男にしては綺麗な笑みを浮かべた副会長と、間の伸びた喋り方をするチャラい会計に、ひるむ。怖い。ふたりとも、笑ってるのに目が冷めてる。怖い。
泣きそうになって、目に力を入れた。こんなことで泣けるか。

「…何、睨んでるんですか」
「わぁ、ちょーこわぁい、こんな奴ほっといて早くいこ?」
「こら、お前ら、タカミチに謝れって、わ、引きずんなよ!わるいタカミチ、行ってくる!ハル、タカミチ頼んだから!」

ミィ、こと、この間この学校に転入してきたミノリを引き連れて、ふたりはさっさと食堂を出て行った。ざわざわと響く周りの生徒の声。批判と罵りばかりで、気味が悪い。

ミノリは、一見すると黒いもじゃもじゃの塊である。容姿で人を判断する連中には、あの姿はお気に召さないらしい。
そう言う俺も、あのカツラは如何な物かと思うけど。同室者だからあれの下が綺麗なブロンドだと知っている。あいつに群がる生徒会も本当の容姿を知ってるんだろう。


「振られちゃったなぁ、逢坂」
「…うるせ」

一緒の席についていた、爽やかな男。笑い方はあの二人と違って、目は俺を責めたりしていない。助かる。マジで。あれトラウマになる。

別に、俺はミノリが好きなわけじゃない。あ、と、とも、友達…、としては、好きだけど。
恋愛感情は、ない。

「佐々木」
「ん?」
「お前は良いのか」
「何が?」
「何が、って…」

俺は、この不良みたいな容姿から、友達が居ない。皆逃げていく。俺の中身は周りとそんなに変わらないはずなのに。
でもその中で、ミノリは俺に声をかけてくれて、親友だと言ってくれた。馬鹿みたいだけど、それが本当に嬉しくて、馬鹿みたいにあいつの後を歩いていった。
あいつの周りにいるのはあいつに惚れている連中で、互いに互いが邪魔みたいだ。

だけど俺は、あいつが誰とくっつこうと構わない。勿論寂しくもあるけど、誰かを好きになるなら応援してやりたいし、あいつに惚れてる奴らのちょっとした手助けだって、あいつが幸せになれるならしてやってもいい。

……ふと、眉間に何かが触れる。目の前の男の指だった。
どうやら考え事をしていた俺はまた目に力が入っていたようだ。隣のテーブルの奴が震えてる。すいません、そんなつもり無かったんです。

「目つきわりぃー」
「うるせぇ」
「あのさ、逢坂」
「何だよ」
「勘違いしてるみたいだけど、俺他に好きな奴いるし」
「え、あ…そうなのか」

これはちょっと…いや結構恥ずかしい。
何だ、でも俺だけじゃなかったのか。そうだよな、俺みたいな奴も、いるよなそりゃ。

「逢坂は?」
「…ミノリのこと恋愛感情で見るとか、申し訳ないだろ」
「はは、何それ」

だって、あいつは本当に、俺にとって大切なんだ。大事な、大事な友達だ。

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