甘くて、苦い。 | ナノ


▽バレンタインのお話



この時期は、嫌いだ。
どこからともなく生徒会室に持ち込まれた甘い食物の山に、溜息しか出ない。

「かいちょー、これかいちょーの分ね」
「いらねぇ」
「持って帰ってよぉー」

これだけでいいから、と会計に持たされた紙袋ふたつ。
俺の甘いもの嫌いは少しは浸透しているのか、中には控えめだけど上品な甘味、なんて謳い文句の某高級菓子店の包みが見えた。

結局は甘い。
だったら、俺には必要ない。



「それ、やる」
「んあ?」
「そこの紙袋」

自分が貰ったらしい菓子を頬張りながら、やつは間抜けな返事をする。
暫くは菓子が夕食、なんて馬鹿なことを言えるぐらいには貰ったようだ。

「少なくね?」
「一部だけ持たされた」
「他のは?」
「生徒会室」
「もったいねー」

ばり、と包装紙を破く音が聞こえ、食べてないのにこっちが胸焼けを起こしそうだ。

「食う?」
「いらねぇっつの」

差し出されたチョコレートは、すぐに奴の口の中に収まった。
唇について溶けたものを、指で拭ってやる。

「ん」
「ん」

自分で食べることはしたくないから指をそのまま差し出せば、丁寧に指を舐められた。
少しねとっとしていて、熱い。

「ここの、美味い」
「そうかよ」

掴まれた腕を引かれて、唇をくっつける前、咄嗟に相手の口元を手で覆う。

「………いやだ」
「なんで」
「絶対、甘い」
「いいだろ、甘いの、苦いのより」
「俺は嫌だ」

きっと、いくら俺が煙草を吸おうと、今のこいつに掻き消されてしまうくらいには、甘味が咥内を占領するだろう。

「お前が食うのやめたら」

いつも通りの甘さなら、少しはガマンしてやるから。

代わりに頬をべろりと舐めると、どことなく甘い気がした。

後で口直しに、煙草を吸おうか。

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