それは、ただの、気まぐれ。
チョコレートの香りがする、煙草。
箱から取り出してみただけで甘い匂いが脳に届く。
火をつければそれは更に広がって、ああこんなもの、買わなければ良かった。
ほんの少しだけ吸って、すぐに灰皿に、先端を押しつぶした。
「……あ」
「あ?」
彼が、眉を寄せた。
そしてネクタイを引っ張られ、首筋に鼻先が掠める。
それからすぐにねっとりと熱い舌先が鎖骨からのど仏付近を舐め上げた。
鳥肌が、立つ。
「……なんだよ」
「甘いから、甘いもんだと思った」
チョコレートの香りが、まだ残っていたらしい。
もしかしたら、彼が甘いものが好きすぎてそういう匂いに敏感なのかもしれない。
「………苦」
「………甘」
どちらともなく自然と交わされたキスは、相変わらず、自分にとっては甘い。
「煙草は煙草か」
「口ん中まで甘くなってたまるかよ」
あの煙草は、いっそゴミ箱に投げ捨ててしまおうか。
「でもその匂いは嫌いじゃねぇな」
「…そうかよ」
もしくは、あの一箱を吸うまでは。
狂言に付き合ってやるのも、悪くは、ない。
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