▽陸×司(×というより+に近いです)
ひょこん、ひょこん、とツインテールが揺れる。
いつも通り可愛い。さすが俺の天使。マジ可愛い。
ただ、時々思う。
彼女のトレードマークと言える、このふたつの尻尾。可愛い、めちゃくちゃ、すごくかわいい……んだけども、いつもこれじゃ、飽きるんじゃないだろうか、と。
いや、たまにポニーテールにしてあげたりはする。でも彼女はポニーテールよりツインテールが良いらしい。
でも、でも、本当はもっと可愛い髪型だってしたいんじゃないか、と。
俺は思うんですよ。
「と言う訳で緒方、ちょっと実験台になって」
「えー、別にいいけどさ、女の子の方がいいんじゃないのー?」
「髪の毛結わせてなんて言えるか馬鹿」
そんな提案されても、俺は普通の男子高校生である。
緒方みたいに遊んじゃいないし、クラスメイトの女子に髪触らせて、とか危ない発言はしたくない。
「てか何で俺なの?」
「蒼志は結えるほどないし」
「俺だってそんな長くないよー」
「でも編み込みは出来そうな長さじゃん」
「編み込み?」
「こう、三つ編みみたいなやつ」
可愛い髪型はないだろうか、とネットで検索していたところ、『簡単ヘアアレンジ』みたいなので、『編み込み』と言う言葉が結構目立った。
三つ編みは辛うじて出来るから、編み込みもちょっと練習すればなんとかなりそうな気がする。
「うーん、まあ、桜ちゃんのためならいいけど」
「よっしゃ」
「優しくしてね?」
「ハゲるくらい髪引っ張ってやるよ」
「ひどい!」
ちょっと腹立ったのは仕方ないことだ。光り輝くような笑顔でウインクとか本気で腹立つ。
「えーと、……」
緒方を適当に椅子に座らせ、ネットを確認しながら、我が家にある道具を引っ張り出す。
と言ってもヘアピン程度ぐらいで良いんだけど。
さて、取りかかろう。
緒方の後ろに立って、髪に触れる。と。
「……緒方ムカつく」
「え、なんで!?」
「なんでも」
サラッサラだった。
脱色だって何度もしてるだろう、地肌も髪も散々苛め抜いてきただろう、それなのに俺の毛よりサラッサラだ。
「ハゲろ」
「何でそんなこと言うの!」
まあ確かに?
桜の髪もサラッサラだし?
練習台としてはとてもいいかもしれないけど?
「……司ちゃん、唸りながら髪弄るのはちょっと怖い」
「ハゲろ」
「やめて!!」
イケメンにはイケメンの苦労もあるんだろうけど、知ったこっちゃない。
呪いを込めながら髪をひと房取っていると、突然ぐるん、と緒方がこちらに振り返った。
折角ちょっとだけ編み込んだそれが、はらりと散る。
「あ!」
「……何かヤな気配を感じた」
じっとりと緒方に見上げられる。
緒方の方が身長が高いし、普段は見下ろされることが多いから新鮮だ。
「……」
「……」
「……ん?なに、司ちゃん」
きらきら。
緒方に似合う言葉だ。
蒼志とはまた別系統の、華やかな雰囲気の、整った顔。
「綺麗な顔してんなぁ」
そんな感想を、つい口に出す。
すると何故だか緒方はさっと顔をまた前に戻してしまった。
――ふぅん?
「照れてんの」
「……そりゃあ、こんな間近で言われたらさぁ」
「言われ慣れてるくせに」
「まぁ、うん」
「うわ、むかつく返答」
「でもやっぱ、面と向かって、からかわれてんじゃなくて、そんな普通に言われたら照れるよ」
「そんなもん?」
「そんなもん」
俺にはその線引きってものはわからないものの、緒方が言うんだから彼の中ではそうなのだろう。
微かに耳を赤くして、大人しくなった緒方の髪をまたひと房取る。
「桜が緒方のこと、王子様って言うのも、むかつくけどわからなくもないよ」
「うぇ?」
「緒方って、きらきらしてるし」
「……なんで急にそんな俺のこと褒め始めるの!?」
「普通そこは照れるんじゃなくて気色悪がるところだろー」
「司ちゃんは別ぅ!」
「何でだよ」
同級生にそんなこと言われたら、普通は嫌がると思うけど。
よくわからないまま、今度は動かずおとなしい緒方の髪を編み込んでいく。
「……司ちゃんはさ」
「んー?」
「ひとタラシだよね」
「はあ?それ蒼志だろ」
「そうだけど!そうだけど、司ちゃんは、健全に、本気にされるタイプ」
何だそれ。健全に本気って。
そもそもモテた記憶はない。至って普通の男子高校生だからな!
「女の子だったら、多分俺、本気で口説いてる」
ぽそりと呟かれた言葉は、確かに俺が女の子であれば、ときめいていたのかもしれない。
しれない、が。
「それは俺に喧嘩売ってるってことでいいんだな、陸」
気色悪い、と俺が言おうとしたタイミングで、後ろから低い声に遮られてしまった。
「げぇ!?あっくん!?」
「何だよ俺が居たら悪いのか」
「そうじゃないけどぉ!冗談で……!あっくんに喧嘩売ろうなんて思ってませんー!」
「そうか。それより何してんだ」
「編み込みの練習台。今度桜にやってあげるために、緒方の髪犠牲にしてる」
「そのまま引っこ抜いてやれ」
「やめて!!」
動きそうになる緒方の髪をぐい、と引っ張ると、更に騒がしく叫ばれた。引っこ抜かないつもりだから安心しろっての。
「……でも相手があっくんじゃなかったら頑張ってる」
「陸、表出ろ」
「何訳わかんないことで喧嘩してんの、ふたりとも」
あとでイチゴのパッチンピンでお揃いで飾り付けするぞ。
そうふたりを脅すと途端に黙ったから、まあ良しとする。
と思ったのに、それから編み込みが上手くいくまでの間、ふたりは何故か小さな小競り合いを繰り返したから、結局イチゴのパッチンピンはふたりの頭上に存在することになった。
それを見た桜がご機嫌だったので、三人揃っての写真を撮ってあげました。
ちなみにご機嫌斜めになった蒼志のご機嫌取るのには大変苦労しました。
緒方?緒方は弁当作る約束したらキラッキラの笑顔をしていたので、大変ちょろいと思います。
それでさらに蒼志が機嫌悪くしてたけど……ほんと、何なんだろうね。
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