初恋は実らないと言うけれど、それは、うん。私にとって、正しくそうだった。
「桜ちゃんのお弁当いいよねぇ」
「お兄ちゃんが作ってるんだっけ?」
「うん」
幼馴染である彼女は、にこり、可愛らしく微笑む。そんな顔は、割と幼稚園の頃から変わってない。小学生まで結っていた高めのツインテールは、今は低めの二つ結びになっていた。
「いーなぁ、料理できる男って得点高い」
「旦那にいいよね」
「むしろお嫁に欲しいくらい」
おませな双子ちゃん、なんて。幼稚園の時は保護者にそんなふうに言われてたっけ。
そんな双子の片割れ桜とは、今もずっと仲良しだ。昔からずっと。喧嘩もしたけどその分仲直りもしてきた。
桜のことは、きっと、あのひとの次に、よく知っている。
「あーだめだめ、つーちゃんはだめ」
料理が出来て家事が出来て、妹に優しくて、その友達にも優しいあのひと、とか。まあみんなはそこまで知らないだろうけどさ。
「つーちゃん?」
「桜のお兄ちゃん。つーちゃんはだめだよ、もう貰い手いるし」
「え、そうなの!?」
「結婚してるんだ!?」
そんな高物件、余ってる訳ないじゃんって話。
ね、と同意を求めて桜を見ると苦笑を浮かべて、ちょっと困っているようだった。
「ええと、結婚はしてないけど、うん、仲良しだよ」
ほんと、私も思うよ。羨ましいって。
恋心なんてものは、たぶん、もうないんだろう。もしかしたら、恋に恋していただけだったのかもしれない。
だけど、あのひとを見ると、今もまだ、どうしても。胸のあたりがきゅうっとして。
実らないことはわかっているのに、わかっているから、余計、悔しいなって、思ってしまう。
「もう10年くらいだっけ?」
「え!?そんな長いの!?」
「たぶん、そのくらいかなぁ。私が幼稚園の時には家によく来てたし」
「ね、桜ん家遊びに行くと絶対いたもん」
幼稚園生や小学生の頃、桜の家によく行っていた私達の初恋は、大体あのひとか彼だった。最初にあのひとが気になって、彼を見たらみんな一目惚れ。なんて軽いの!って、おませな私はそんなこと思ってた。
逆に私は重たいんだろう。ずっとずっと、あのひとが好きだったんだから。一番のライバルは彼だった。彼だけには負けたくなくて、「つーちゃんはわたさないから!」とか、宣戦布告もしたっけな。笑われてデコピンされて、私が泣いちゃって、彼があのひとに怒られて。いい気味、って泣きながら笑ってた。
初恋なんて実りやしない。よーく知ってる。出会ったのは、ほんとは私の方が早かったんだよ。でもね、あのひとは彼を好きになったから、私の恋は実らなかった。
「あーあ、彼氏ほしいなぁ」
友達の誰かが言う。結局、私達女子高生の話の結末はそこに辿り着くのだ。そんな時期だからね。
あーあ、私も、彼氏ほしいなぁ。
桜はそんなこと言ったら、お父さんと、あのひとと、それから彼と。あとあのひとたちの何人かのお友達に、全力で止められちゃうのかもなぁ。
ちょっとだけかわいそう、と思ったけど、当の桜はきょとんとして、そう?なんて首傾げてる。
「桜はそのままでいるんだよー」
「なーに、それ。でも彼氏はいいかな、別に」
くすくす桜が笑って、私もつられて笑ってしまう。
彼氏が出来たら、全部全部、何もかも、笑って終わらせること、できるのかな。
ねぇ、どう思う?
おませな双子の片割れちゃん。
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